清々しい気持ちで、中断期間に入ることができた。
6月1日の天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会の2回戦、沈みがちだった浦和レッズのロッカールームに久しぶりに笑顔が広がったという。
国内では10戦ぶりの勝利。J3の福島ユナイテッドFCから決勝ゴールを奪った明本考浩は、ずいぶん前のことのように振り返っていた。
「素直な思いを口にすれば、天皇杯の勢いのまま、リーグ戦を戦いたかったですね。でも、あのゴールを決めて、少しほっとしましたよ。僕自身、リーグ戦で決めるべきところで決められなかったので。区切りの1点になったのかなって」
あれからすでに2週間。すっかり気持ちは新たにしている。18日のリーグ再開に向けて、表情を引き締めていた。
「まだ満足のいくプレーはできていません。もっとやらないと」
中断期間中に与えられた6日間のオフはあえてサッカーのことは考えず、頭の中を一度リセット。そして、迎えた6月8日の練習再開からエンジンをかけ直した。
今季は主に左サイドバックでプレーしているが、さっそくシュート練習にも精を出している。天皇杯で決めたミドルシュートも、その成果の表れ。
「練習は嘘をつきませんから。ゴールは常に狙っています。シュートを打てる場所に入っていくことは、いつも意識しています。左からカットインして、右足で打つのは理想ですが、それはこれからですね」
ただ、より力を入れているのはクロスボール。チームの全体練習が終わると、平川忠亮コーチのもとに駆け寄る。
長年、レッズでサイドバックのスペシャリストとしてプレーしてきたレジェンドの言葉は、すっと頭に入ってくる。状況に応じたボールの置きどころ、クロスを入れるポイントなど、細部まで丁寧な指導を受けている。
「ヒラさんは経験者ならではのアドバイスをくれます。僕みたいなケツの青い選手は、もっともっと学ばないといけません」
居残り練習では、サイドバックのイロハから見直している。
リカルド ロドリゲス体制で重要視されるポジショニングは、そのひとつ。間接視野に敵味方を入れるように心がけており、左サイドから見える景色が少しずつ変わってきたという。
「立ち位置は改善できてきましたが、まだ難しい部分もあります。毎日のようにトライしています」
ひとりで試合映像をじっくりと見返し、チームメイトとのコンビネーションもチェックしている。レッズ移籍1年目の昨季は遮二無二走り回っていたが、今季はそれだけではない。時間を見つけて、仲間と積極的にコミュニケーションを図り、何度も確認。連係を深めて、自らの長所を生かす努力を欠かさない。
「僕は周りに使われる選手なので。自分の動きをもっと深く理解してもらうために、その都度、話すようにしています。以前に比べると、チームメイトに僕の特徴を生かしてもらえるようになりました。そこの手応えは感じています」
左サイドでは異なるタイプの選手たちとコンビを組んでいる。昨季から一緒にプレーする関根貴大をはじめ、小泉佳穂、江坂任などさまざま。最近では今季途中に加入したアレックス シャルクともコンビネーションを構築しているところだ。ボランチ、センターバックとの関係など、改善の余地はまだ多く残されている。
過密日程を乗り切るために多くのメンバーがローテーションで入れ替わるなかでも、明本への信頼は揺らがない。
リーグ戦は14試合に出場(先発12試合)。出場停止を含め、欠場したのはわずか2試合のみ。主力としての自覚が芽生えており、それだけ重たいものが肩にのしかかる。
「“浦和を背負う責任”はひしひしと感じています。僕はずっと試合に出ているのに、チームを勝利に導けていません。ファン・サポーターが求めているのは、アグレッシブなサッカー、そして試合に勝つこと。浦和はもっと上にいるべきクラブです」
チームとして高い目標を掲げているが、明本は現実から目を背けていない。いまは目の前の試合に勝つことに集中している。
「このままで、何とかなると思っていると、取り返しがつかなくなります。もっと危機感を持って戦わないといけない。僕はピッチの中で自ら率先して、戦う姿勢を前面に押し出していくつもりです」
リーグ再開後もハードスケジュールは続く。レッズはJ1の勝負だけに専念できるわけではない。6月、7月は天皇杯、8月はYBCルヴァンカップとAFCチャンピオンズリーグ2022も並行して戦う。
チーム屈指のハードワーカーは待ち受ける連戦を控え、意気込んでいた。
「タフに戦えるのは僕の長所。そこで強さを出していかなければ、僕ではない。チームを鼓舞するようなプレーを見せていきたい。這い上がっていくレッズの象徴になりたいと思っています」
誰よりも熱いハートを持つ24歳は、誰よりも明るい。
「夏の明本、頑張ります。注目してください」
頼れるムードメーカーの笑顔には、自信がにじんでいた。
(取材・文/杉園昌之)
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