4月7日に行われた明治安田J1リーグ第7節 サガン鳥栖戦の81分、インサイドハーフの伊藤敦樹に代わってピッチに足を踏み入れた。
安居海渡にとって、これが今季の初出場。公式戦7試合目にしてようやく24シーズンの第一歩を踏み出したわけだが、試合後の安居に満足感はまったくなかった。
「いやあ、決めたかったですね、あれは……」
90+6分、センターサークル内でこぼれ球を拾った安居がドリブルで持ち運び、右足を振り抜く。渾身の一撃は、しかし、わずかにバーの上を越えていった。
ポジション争いの序列をひっくり返すのにゴールという結果が最も有効であることは、ほかでもない安居自身が身をもって知っている。
開幕2連敗で迎えた昨シーズンのリーグ第3節のセレッソ大阪戦。過去2試合でベンチ外だった安居はこのゲームでベンチ入りして77分から途中出場すると、82分に決勝ゴールを叩き込む。それ以降、トップ下のポジションを掴んだ安居は、公式戦50試合以上に出場することになった。
だから安居は、3月半ばに話を聞いた際にも「どこかで絶対にチャンスが来ると思っているので、そのときにまた一発、決めないといけないなって思っています」と語っていた。
もっとも、安居にはこの日、どうしてもゴールを決めたい理由がほかにもあった。
「今日、親父の誕生日だったんですよ」
サッカー経験者である父親は、昔も今も安居にとってよき理解者であり、よきアドバイザーだ。小学生時代には父が監督やコーチを務める少年団でプレーしていた。
「小学生の頃は、父の助言をうるさいなと思っていたんです。でも、大人になるにつれて、自分にとってプラスだと感じるようになりました。そこで、自分はこう考えてプレーしていたって話せば、ディスカッションにもなりますから」
なかなか出場機会を得られなかったプロ1年目には励まされ、試合に出続けたプロ2年目には効果的なアドバイスを受けた。ここまでベンチ入りメンバーにもなれず、ゲーム形式のトレーニングではセンターバックに入ることすらある今シーズンも、父の言葉に支えられてきた。
「『不貞腐れて、やらなくなることが一番もったいないぞ』って。『そこ(センターバック)でやる意味もあると思うよ』と言われて、その通りだなって。試合に出られないのは自分の問題なんで、態度に出して周りに悪い影響を与えたくない。
センターバックをやってみて、アンカーがこうしてくれると助かるんだなっていうことに気づいたり、ポジティブな要素も多い。それに、どこでもやれる選手は強いなって思っているので」
もちろん、モヤモヤを抱えていないわけではない。悔しさは人一倍溜め込んでいるが、それを表に出すことはない。日々のトレーニングにおける振る舞いと、与えられた機会に結果を残すことで、現状は必ず変えられると知っているからだ。
「徐々に出場時間を増やしていって、最終的には自分がスタートから出ることを思い描いているんで、日々のトレーニングでもっとやっていかないと」
だから安居は気持ちを切り替えて、再び次のチャンスを掴みにいく。
(取材・文/飯尾篤史)
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