ベテランと若手の融合による結晶――。
三菱重工浦和レッズレディースのWEリーグ初制覇は、そんなふうに総括できるかもしれない。
安藤梢、菅澤優衣香、猶本光、清家貴子、塩越柚歩といった経験豊富な選手たちがチームを牽引した一方で、21歳のFW島田芽依、20歳のGK福田史織、19歳のDF石川璃音といった若い力の台頭が光った。
そのひとり、ストライカーの島田が清々しい表情で充実のシーズンを振り返る。
「私自身、リーグ戦優勝は初めての経験だったので、すごく嬉しかったです。試合を重ねていくにつれ、チームとしても個人としても成長を感じられたので、それを結果として残すことができて良かったです」
21年2月にレッズレディースユースから加入した島田にとって2年目となる2022-23シーズンは、最終節を残して8ゴールをマーク。ノーゴールだった昨シーズンから大きく飛躍した。その要因は、いったいどこにあったのか。
「何かを変えたわけではないんですけど、練習後に正木(裕史)コーチに自主練習に付き合ってもらって、シュート練習に力を注いできました。今まではシュートを打っても相手やポストに当ててしまうことが多かったんです。でも今季は試合中、落ち着いて自然体でシュートを打てるようになりました」
こうした日々の積み重ねの一方で、1シーズン目と2シーズン目の間には、島田の意識を変える出来事があった。
22年8月にコスタリカで開催されたFIFA U-20女子ワールドカップである。チームが準優勝に輝いたこの大会で、島田は少しばかりの自信と大きな悔しさを持ち帰ることになる。
「体調不良で出遅れてしまって、3試合に途中出場しただけで何も残せませんでした。球際とか、フィジカル面で手応えを感じたところもあったんですけど、悔しい気持ちのほうが大きかったですね。ただ、気持ちの切り替えは早かったです。レッズレディースに貢献したいという気持ちが強かったので、戻ったらしっかりトレーニングを積もうと思っていました」
覚醒の瞬間は、9月25日に行われた2022-23WEリーグカップ グループステージ第6節のちふれASエルフェン埼玉(EL埼玉)戦で訪れた。
7分、憧れの存在である菅澤からのクロスに体ごと飛び込むようにして左足でゴールを決める。楠瀬直木監督から「チャンスは多くないぞ」とハッパをかけられるなかで決めた、嬉しい公式戦初ゴールだった。
「取らせてもらうような形のゴールだったんですけど、あの1点で、自分の中で何かが変わったという感覚がありました。昨シーズンは結果を残せなかったので、危機感を持ってやっていましたし、監督の言葉をしっかり受け止めてプレーしていたので、結果を残すことができてホッとしたと同時に、もっともっと点を取ろうという気持ちになりました」
変わったのは運気だったか、自信だったか。10月に2022-23Yogibo WEリーグが開幕すると、島田は第1節のAC長野パルセイロ・レディース戦、第3節のサンフレッチェ広島レジーナ戦でいずれも途中出場ながらゴールを決める。
勢いに乗る若手のホープをベンチに座らせておく手はない。第5節以降、指揮官は島田をスタメンで起用するようになり、島田も得点を積み重ねることで期待に応えていくのだ。
得点力を開花させた今シーズンは、プレーの幅を広げるシーズンにもなった。
本来はセンターフォワードタイプだが、そのポジションには不動の存在であるエースの菅澤が君臨している。そこで楠瀬監督は島田を左サイドハーフにコンバートする。
「サイドはやったことがなかったので、ボールの受け方やプレッシャーの掛け方が分からなくて。周りの先輩のアドバイスを受けながら、支えてもらいました。監督や先輩たちからは守備について言われることが多かったので、連動してボールを奪いに行くことは1試合を通して意識していました。そのなかでも得点できたのは大きかったと思います」
飛躍のシーズンとなった今季の目標は「2桁得点です」ときっぱり言う。だから、最終節となる6月10日のEL埼玉戦に向けても準備を怠らず、最低でも2ゴールを叩き込むつもりだ。
そして、その先の目標もしっかりと思い描いている。
「大きな目標としては、なでしこジャパンに入って、世界でも通用する選手になりたいと思っています。来シーズンは、チームとしては2連覇を狙いたいですし、皇后杯やリーグカップも含めて獲れるタイトルは全部獲りたい。個人としては、今シーズンの得点を上回れるようにしたいです」
世界と渡り合うストライカーとなるための最高のお手本は身近にいる。「(菅澤)優衣香さんと一緒にプレーできることが何よりも嬉しい」と目を輝かせる未来のエースは、貪欲にゴールを目指し続ける。
(取材・文/飯尾篤史)
外部リンク