2014年9月の御嶽山噴火災害で被災した神奈川県綾瀬市の会社員里見智秀さん(57)が22日、御嶽山火山マイスターの認定書を受けた。噴火災害で、一緒に登っていた会社の同僚6人を失った里見さん。災害から10年を前に人々の記憶が風化していくことを懸念し、「同じ災害が起きても犠牲者が出ないよう、自分の経験を役立てたい」と語った。
噴火当日の14年9月27日、里見さんは同僚8人とともに入山し、昼前に山頂の剣ケ峰(3067メートル)に到着。集合写真に納まった後、昼食前に噴火に遭った。とっさに祈禱(きとう)所のカウンターの下に身を隠したが、噴煙が立ち込め、辺り一面が暗闇に包まれた。同僚5人が犠牲になり、1人の行方は分からないままだ。
以来、里見さんは同僚らの慰霊を続けてきた。剣ケ峰までの立ち入り規制が解除された18年からは「一緒に飯を食えなかった」と、毎年カップ麺6個を持って山頂を訪れている。
火山マイスターは御嶽山の魅力や火山防災の知識を伝える役目だ。里見さんは認定制度が始まった17年度に初めて挑戦。だが、この時は受験資格が山麓の在住者や在勤者に限られていた。諦められずに19年度に審査を受け直したが不合格。それでも「災害が風化するのは寂しい」と奮起し、23年度審査で合格した。
里見さんはこの日、木曽郡王滝村の松原スポーツ公園にある慰霊碑を訪問。カップ麺6個を供え、噴火時刻の午前11時52分に手を合わせて自身の合格を報告した。同郡木曽町の県木曽合同庁舎で認定書を受け取ると、「重責がのしかかる。犠牲になった人、その遺族が私の後ろにいる」と緊張した面持ちで話した。
昨年の9月27日はガスで視界が悪く、山頂への慰霊登山は見送った。「噴煙を見て噴火を認識できない」との判断からだった。年月が過ぎ、「古い記憶が消えていくのは当然」と思うが、経験をつないでいくことはできるはずだと考えている。「マイスターの中で山頂での生々しい実体験を語れるのは自分だけ。機会あるごとに伝えていきたい」
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今回、里見さんとともにマイスターの認定書を受けた4人は木曽郡上松町上松小学校教諭新倉(あらくら)和毅さん(25)、木曽青峰高校教諭石沢淳さん(33)、木曽町職員野田智彦さん(38)、御嶽山二の池ヒュッテスタッフ松下那美さん(42)。マイスター認定は累計28人になった。
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