「(古川雄大という)スターが大スターになった。皆さんはその歴史の目撃者」。ミュージカル「LUPIN(ルパン)~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」が11日、長野市のホクト文化ホールで迎えた大千秋楽。カーテンコールで、ガニマール警部役の勝矢が発した「大スター」「歴史」という表現に、座長の古川は照れて大きく笑った。
古川が単独主演した帝劇ミュージカルで、怪盗アルセーヌ・ルパンを題材に書き下ろされた。昨年11月の東京・帝国劇場を皮切りに名古屋、大阪、福岡を巡り、上高井郡高山村出身の古川の故郷、長野に至る全75公演。キャリーバッグを引く遠方からの観客も多く、何公演も追いかけたのか、10枚はあるチケットを手に記念撮影する人もいた。
ルパンは変装の名人。古川は幾人もの人物を演じ分けた。序盤ではプレーボーイの実業家として、男装した伯爵夫人と踊り、アクションを展開する。宝塚歌劇団の男役トップ経験者が演じる男装の麗人を相手にこれだけ絵になる俳優は日本に何人いるだろう。元タカラジェンヌからの「君はこの僕くらい、美しい男の色気を表現できるかい?」という挑発を、古川は堂々と受けて立っている―と勝手に解釈して見入った。
女性ダンサーのアネットとして登場する場面では、真っ赤な衣装でカンカンを陽気に踊る。高音を響かせる歌声でも魅了し、去り際には、丸々と鍛えた上腕二頭筋を客席にちらりと見せて笑った。他の出演者の見せ場も存分に、幕が下りるまで、観客が喜ぶことを詰め込んだ演出だった。
帝国劇場に古川が初めて立ったのは2012年。“次世代のエース”として、出演者を変えて上演が続く「エリザベート」「ロミオ&ジュリエット」「モーツァルト!」などで主役、主役級を務めるように。当初は声楽の技術が追いつかず苦しんだと、インタビューなどで語っている。そして今回、新作に単独主演し、ルパン役の初代として名を刻んだ。
会場には、古川が10代の頃にダンスを学んだ「瀬川ナミ☆ジャズダンスカンパニー(セガワバレエアカデミー)」の指導者らの姿も。カーテンコールで古川が紹介し、舞台や客席から拍手が送られた。「これまでの彼の努力、苦労を思うと涙が出た」と、県内のある観客は語る。別の観客は「還暦を迎える頃はどんな役をどう演じるだろう」と今から楽しみにする。満場の観客、ライブ配信の視聴者の前で、凱旋公演が閉幕した。(典)
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