夏のような陽光が降り注ぐ6月10日のエディオンスタジアム広島には、もう選手は残っていなかった。唯一、ドウグラス・ヴィエイラ(以降ドグ)を除いて。練習後30分以上にわたって、彼は迫井深也ヘッドコーチと言葉をかわし続けていた。
迫井コーチとの会話。ドグは自分の主張だけでなく、コーチの言葉にも真剣に聞いて心に落とし込んでいた(6月10日撮影)
彼は今季、リーグ戦での出場はまだない。3月2日のルヴァンカップ名古屋戦で先発したが、33分に負傷交代。以降のカップ戦、ドグは先発していない。
昨年、彼はシーズン終了を待たずに帰国。新シーズンに向けて母国で左膝のケガを完治させるためだった。再来日した時は「膝は大丈夫」と笑顔を見せていたが、その後は度重なる負傷のため何度も離脱。トレーニングに復帰しても状態があがってこない。
ミニゲームの前に指示を出す有馬賢二コーチ(右端)の言葉に、真剣な表情で耳を傾けるドグ(6月10日撮影)
「ずっと難しい状況が続き、暗い部屋で扉を探しているような感覚に襲われた」
ドグは苦しんだ。だが「諦めるな。自分と神様を信じて続けるんだ」と自分に言い続けた。
「調子は良くなった。イメージどおりにプレーできている。やれる自信はある」
トレーニングでも厳しく球際を闘い、ドグは必死でアピールを続ける(6月10日撮影)
そんな実感を手にしたからこそ、迫井コーチに相談を持ちかけた。その内容はわからない。だが「今季に賭けている」という彼の想いを考えれば、何を話したかは想像に難くない。
週明け(6月14日)の練習で、ドグは輝いた。確実なキープ。精密なワンタッチパス。コンビネーションを使いつつ、チャンスを確実に決めた。
トレーニングの紅白戦でドグのチームは残念ながら敗戦。罰ゲームの腕立て伏せにも真剣に取り組む(6月10日撮影)
これが、ドウグラス・ヴィエイラだ。この姿を待っていた。
記者が感じた実感は、ミヒャエル・スキッベ監督も同様。翌日も見事なプレーを披露した彼を高く評価して「ドグがフィットしてきたことが、すごく嬉しい。彼の練習は本当に良かった」と笑顔を見せた。
どんな状況でも全力で走るのがドグの信条であり、ストロングポイント(6月10日撮影)
指揮官に「ドグには近いうちにチャンスを与えますか?」と聞いてみた。
「あるかもしれない。本当によくなっているからね」
この時に見せたスキッベ監督の笑顔には、リアリティがある。理由はないが、そう直感した。
ドウグラス・ダ・シウバ・ヴィエイラ
1987年11月12日生まれ。ブラジル出身。2016年、東京ヴェルディに加入後、翌年から2年連続二桁得点、80試合で31得点と結果を残した。2019年から広島でプレー。度重なるケガのために期待されたほどの成績は残せていないが、試合に出れば高質なプレーを見せ、昨年9月18日の対柏戦ではハットトリックを記録。取材時は常にポルトガル語を使うが、実は日本語もかなり習熟していて、選手たちとのコミュニケーションも円滑。温厚な人柄で国籍を問わず、慕われている。
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