広島が首位・鹿島を完璧な内容で撃破した試合(5月7日)は、まさに衝撃的だった。
J1最強の呼び声が高い上田綺世・鈴木優磨の2トップを擁して快進撃を続けていた首位チームを広島が攻守に圧倒し、3-0での快勝は誰もが予想不可能。特に1度も練習したことのないジュニオール・サントスとナッシム・ベン・カリファの2トップや野津田岳人のアンカー、塩谷司のストッパー起用などのシステム変更を試合当日に打ち出した、大胆なミヒャエル・スキッベ監督の采配は、驚きを与えた。
この試合で広島が唯一、「危ない」と感じたのは10分のシーン(上の公式映像では0:38から)だ。
スルーパスに抜け出した松村優太がPAに侵入し、GK大迫敬介をかわした。
「やられた」
紫のファミリーたちが諦めかけたその瞬間、状況は一変。ボールは弾き出され、松村はシュートも打てずに倒れた。
豪放磊落に見える塩谷だが、日々のトレーニングに対する集中力は抜群。体調不良から復帰した直後もその姿勢は変わらず、全力を尽くした(4月27日撮影)
完璧なタックルでピンチを救ったストッパー・塩谷司は平然と立ち上がり、称賛の拍手に手もあげない。
「これくらいは当然」
背番号3はそう言いたげに、次のプレーへの準備に入った。
強靱なフィジカルを持つ塩谷だが、フィジカルトレーニングそのものは苦手だ(4月27日撮影)
試合後、彼のこのシーンを称賛しても、塩谷は「(大迫)ケイスケがかわされた瞬間にシュートを打たれたら危険だったけれど、落ち着いて対処できた」とだけ。しかし、監督の采配については、饒舌だった。
広島が誇るフィジカルモンスター、ジュニオール・サントス(左)と塩谷の競演である(4月27日撮影)
「(ミヒャエル・スキッベ)監督は凄いですよ。(システム変更は)僕らにとってもサプライズ。でも監督は『ダメだったら変えればいい』という感じで、思い切った策を打ってくる。東俊希や藤井智也をボランチで使ってみたりね(笑)。でも、そういう思い切りが柔軟性となって僕らの成長に繋がる。本当に面白い監督ですよ」
塩谷が絶対の信頼を寄せるスキッベ監督もまた、彼を頼りにしている。
「鹿島戦から塩谷が最終ラインに入って、ビルドアップも良くなった。特長であるフィジカルの強さも発揮してくれているね」
約4年の海外生活で身に付けた英語で新外国人FWナッシム・ベン・カリファに話しかけてサポート。「シオには助けてもらっているよ」とナッシムは感謝の言葉を口にする(4月27日撮影)
4月10日から続いた体調不良による約20日間の離脱を乗り越えた塩谷司はスキッベ監督を信じ、指揮官の示す方向を信じて、チームを助けるために闘う。
塩谷司(しおたに・つかさ)
1988年12月5日生まれ。徳島県出身。徳島商高から国士舘大を経て、2011年に水戸加入し、翌年8月に広島に完全移籍。2017年夏にアル・アイン(UAE)で主力としてプレーし、2021年秋に広島に復帰。水戸時代の「潰し屋」的なイメージから広島時代には超攻撃的ストッパーとしての才能が開花。アル・アインではボランチやサイドバックなどの複数のポジションでチームの信頼を集めるなど、移籍する度に進化を続けてきた。広島復帰後はボランチとしてプレーしていたが、鹿島戦以降はストッパーとして睨みを効かせている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】