開幕するまでは、仙波大志の評価が満田誠を上回っていた。
フィジカルトレーニングの合間にも、ふと自分自身を見つめて考えているような様子の仙波大志(5月23日撮影)
クラブ史上2人目となるルーキー開幕スタメンを勝ち取り、幼い頃から憧れていたエディオンスタジアム広島のピッチに立った仙波と、メンバーにも入れなかった満田。
広島ユース時代から流通経済大、そしてプロと、共に闘ってきた友だち同士の状況は、残酷なコントラストを描いていた。
だが、今は立場が逆だ。
満田はリーグ戦で4得点3アシストを記録し、堂々たるレギュラー。一方の仙波は3月19日の対川崎F戦以来、リーグ戦出場はない。開幕戦で自分のプレーを発揮できなかったことが尾を引き、トレーニングでもアピールできていないのが実状。
トレーニングでは1つのセッションが終わると、ミヒャエル・スキッベ監督から次のトレーニングについての説明が行われる。仙波もしっかりと、言葉の1つ1つに耳を傾ける(5月23日撮影)
「ミスを怖れたプレーになっていた」と仙波は分析。彼の技術の高さは満田も「自分よりも上」と認める。だが、その力を試合で発揮できない。
5月18日に出場したルヴァンカップ清水戦の前半も、緊張も手伝って消極的なプレーに終始。下を向く姿ばかりが印象に残った。
仙波の1学年上である松本泰志との会話からヒントを手にできれば(5月23日撮影)
「ボールをもっと受けろ。ゴールに向かってプレーしろ」
ハーフタイムでのミヒャエル・スキッベ監督の言葉が仙波に力を与えた。
松本泰志同様、柏好文も今季、メンバー外から這い上がってポジションをつかんだ。大先輩の言葉は、仙波を勇気づける(5月23日撮影)
61分、柴﨑晃誠にパスを出してスペースに走り、ボールを持った棚田遼にパスを要求。シュートを打つプランを直前で変えて、永井龍にボールを置くようなスルーパス。
これだ。これが、仙波大志だ。そう叫びたくなるほど、美しいアシストだった。
後片付けをしている仙波のとなりに、同期の川村拓夢が近づいてきた。大迫敬介・満田誠・川村、そして仙波。広島ユースの同期生たちは互いにライバルであり、そして友である(5月17日撮影)
満田が先を行く状況は「大学1年の時と同じ」だと彼は言う。
「あの時も(満田)マコがまずレギュラーになって、僕が追いかけていた。これからです。負けたくないし、頑張るしかない」
満田は「自分もポジションを確保するために頑張る。一緒に試合で活躍することが、2人にとって嬉しいことだから」と想いを口にする。
そんな友の気持ちは、仙波自身がもっとも理解している。
「もっともっと、やらないと」
清水戦後の言葉が、その証明である。
仙波大志(せんば・たいし)
1999年8月19日生まれ。広島県出身。MF。小学校時代からサンフレッチェ広島のアカデミーで育ち、JFAプレミアカップ(2014年)や高円宮杯プレミアリーグWEST(2016年)で優勝。だが、広島ユースからのトップチーム昇格は叶わず、流通経済大に進学(2018年)。大学3年の時に曺貴裁コーチ(現京都監督)と出会い、大きく成長。特にスルーパスを磨くことでMFとしての幅も広がった。2022年、広島ユース・流経大と共に戦ってきた満田誠と共に、広島加入。ピッチ内でも外でも常に笑顔を見せ、人懐っこい性格だが、一方で緊張を隠せないタイプでもある。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】