テニスがまた、少し変わった——?
米国カリフォルニア州で開催中の、BNPパリバオープン(ATPマスターズ1000)。
その予選を突破し、本戦初戦でも快勝したダニエル太郎のプレーを見た時、そんな印象を抱いた。
「守りの人」のイメージ強かったダニエルのテニスが、ポジションを上げネットにも出る速攻型へとドラスティックに変容したのが、昨年序盤のこと。
そして今大会では攻守の均衡を模索し、ドロップショットやロブも多用しながら、緩急自在のテニスを標榜しているように感じた。
果たして、本人が志向するのは……、「強い人間になることです」。
それが、返ってきた答えだ。
予選決勝のポピリン戦。ドロップショットを効果的に用いて勝利(画面手前)
現在のダニエルは、日本ナショナルチームのサポートは得ながらも、特定のコーチは付けずにツアーを周っている。
「人に言われたことじゃなくて、自分はどういうふうに次の一歩を進めたいのかを、なるべく正直にやっていきたいなって」
過去2年間、スポーツ心理学者のジャッキー・リールドンに師事し修得したのは、「自分の感情を自己分析する」すべだと明言。
「試合中もリアルタイムで、自分が何を感じ何を考えているかに、逃げずに向き合えている」
だからこそ、予選決勝で第2セットを悔しい形で失なった時も、「トイレットブレークの間に大声で叫び気持ちを切りかえられた」のだろう。
プレー面で取り組んでいるのは、フォアハンドの強化に加え、戦略面。
「どういうふうに相手を分析し、うまく崩していくのか? 試合をパズルみたいに吸い考えることが大事だなと思います」
その“パズル的思考法”が奏功したのが、本戦初戦。過去1勝6敗と大きく負け越し苦手意識を抱くロベルト・カルバレス・バエナの堅守とカウンターを、前後にゆさぶり崩して見せた。
本戦初戦のダニエル(画面手前)。ストレート勝利に「今大会一番のプレー」と喜びを滲ませる
開幕直後は苦しい敗戦も続いたが、先週は世界4位のカスパー・ルード相手にフルセットの死闘を制するなど、結果も急速についてきている。
「ルード戦もそうだし、接戦を一人で乗り切った試合は凄く自信になる」
磨いた種々の技を手元に揃え、「強い人間になる」と決意し、今ダニエルは独自のテニスを自らの手で築き上げようとしている。
なお2回戦は日本時間の11日10時以降開始予定。相手は20シードのマテオ・ベレッティーニ。
現在地を測るうえでも、格好の試金石だ。
ダニエル太郎(だにえる・たろう)
1993年1月27日、米国ニューヨーク市生まれ。アメリカ人の父親の仕事の都合で、幼少期からアメリカ、日本、スペインに移り住む。身長191㎝。世界最高位64。現在103位。
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