【男子テニス】全豪複優勝者リンキー・ヒジカタ。その生い立ちに見る人間性とプレースタイル
BNPパリバオープンの初戦勝利後——。
待ち合わせの席に現れた彼は、満面の笑みを浮かべて自己紹介しつつ、握手の手を差し伸べた。
「Congratulations(おめでとう)」と声を掛けると、小さくペコリと頭を下げる。
欧米的所作と、日本人的な仕草。その名も、リンキー・ヒジカタ。
今年の全豪オープン・ダブルスチャンピオンの彼は、日本にルーツを持つオーストラリア期待の若手だ。
「インタビューは日本語でも良いですか?」
そう尋ねると、彼は少し考えた後に「質問は日本語で大丈夫だけれど、答えるのは英語でもいい?」と申し訳なさそうに言い、生い立ちを話しはじめた。
「僕の両親は日本人です。母は神戸、父は東京出身で、姉と兄は日本で生まれました。家族みんなでシドニーに移り住んだのは、僕が生まれる前。僕はシドニーで生まれ、その後もずっとオーストラリアで育ちました」
ヒジカタがテニスを始めたのは、3~4歳の頃。父がコーチというテニス一家の末っ子にとって、ラケットを握るのはあまりに自然な流れだった。
家族がシドニーに移住した理由については、「聞いた話では」と前置きした上で、こう続ける。
「兄と姉が学校に行き始めた頃、日本の学校制度はとても厳格で、両親はスポーツと勉強を両立させるのが難しいと感じたようです。最初はアメリカに行こうと思ったけれどビザを取るのが難しく、最終的にオーストラリアになったと聞いています」
その両親の決断のお陰で、「勉強とテニスの両方に打ち込めた」とヒジカタは無垢に笑う。
はたして18歳の時には、奨学生としてアメリカのノースカロライナ大学に進学。
2年後には「期は満ちた」との自信を胸にプロ転向。ツアーを本格的に回り始めてまだ1年半ほどだが、シングルスは116位に達し、ダブルスでは前述したようにグランドスラムを制した。
身長178㎝のヒジカタのプレーは、敬愛するレントン・ヒューイットと錦織圭同様に、軽快なフットワークと鋭いカウンターが武器。
ただここ最近の彼は、サーブ&ボレーを頻繁に試み、ラリー中も隙あらばネットを取る。
サーブ&ボレーを鮮やかに決めるリンキー
「攻撃的なプレーが好きだし、今はネットプレーを増やしているんです。コーチのマーク・ドレイパーはサーブ&ボレーヤーだったので、彼の指導方針も大きい。まだまだ上手く行く時とそうでない時があるけれど、これからも続けていきたいと思っています」
アジア的なアジリティと精度、そしてオーストラリア伝統のサーブ&ボレースタイル。それらを融合させた独自のテニスを、彼は築きつつある。
なお「リンキー・ヒジカタ」の漢字表記を本人にたずねたところ——、「ちょっと待ってね、写真に撮っているから」と、スマホのアルバムをのぞき込んだ。
画面を指で素早くスライドし、何度も「ごめん、絶対にあるはずなんだけれど」と詫び、ほどなく「あった!」と手書きの文字を見せてくれた。
土方凛輝
凛とした佇まいと輝く笑顔が印象的な、彼に相応しい字面だった。
Rinky Hijikata(りんきー・ひじかた)
2001年2月23日、オーストラリア・シドニー出身。ジュニア時代からテニスオーストラリアの手厚いサポートを受ける。今年の全豪で単GS初勝利を手にすると、盟友J・キューブラと組んだダブルスでは頂点へ。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】