【男子テニス】人工関節を抱え、アンディ・マリーが「今が一番フィジカルに自信がある」と断言する理由
「正直に言うなら、キャリアを振り返ってみても今が一番、自分の体力に自信があるんだ」
この言葉を聞いた時、正直に言うなら、驚いた。
それは単に、彼が今年36歳を迎えるベテランだからではない。
4年前――彼は股関節に耐えきれぬ痛みを抱え、「人工関節を入れる以外に、痛みから解放される方法はない」と涙ながらに打ち明けた。
しかも手術は「テニスを続けるためではなく、日常生活を送るため」の選択だという。このとき誰もが、アンディ・マリーの輝かしいキャリアは、ここで途絶えるものと思った。
果たして彼は人工股関節の手術を受け……そして、僅か4か月後にコートに戻ってきたのである。
もちろん、以前と同じように動けた訳ではない。1年を通しツアーを転戦するのは困難で、2021年の東京オリンピックでも、「単複両方の出場は無謀」と判断し、シングルス出場を見送っている。
その彼が、現在開催中のカタールオープンで、「フィジカル面は問題ない」と明言した。
世界71位のロレンゾ・ソネゴ(イタリア)相手に、3本のマッチポイントを凌ぎ、2時間30分、4-6,6-1,7-6(4)の逆転勝利をもぎ取った後のことだ。
ベースラインの打ち合いから、最後はボレーで試合にピリオドを打つマリー(右)。観客も大興奮の勝利の瞬間
マリーの自信の根源は、1か月前の全豪オープンにある。
初戦で世界14位のマテオ・ベレッティーニ(イタリア)から5時間に迫る大熱戦の末にフルセットで勝利すると、その2日後には、タナシ・コキナキス(オーストラリア)相手に2セットダウンから5時間越えの大逆転劇を演じてみせた。
「自分のキャリアの中で、5時間の試合を立て続けに勝てたことは記憶にない」
そう言うマリーは、「昨年末の激しいトレーニングのお陰だ」と続けた。
もちろん「20代の時の方が今より速く動けた」ことは認める。それでも「体力面の自信は、当時より今の方がある」と断言した。
それは「練習量と質の適切なバランスを見つけることができた」から。
「ここ3~4年は、そこが分からなかった。時にトレーニングが足りなく、時に量や内容が適切ではなかった」
それでも試行錯誤をくり返し、絶望に近い失意をも味わい、そして今、ついに適切な均衡と結果を彼は会得している。
踏破した道に根差す自分の身体への理解こそが、冒頭の発言の真意だった。
その発言に驚かされたのは、前述した通り。
ただ続く彼の言葉を聞き、表情を見て、一層驚かされた。
この奇跡的な復活劇に、彼自身は、一切驚いていない風情だったから。
Andy Murray(アンディ・マリー)
1987年5月15日生まれ、スコットランド・ダンブレーン出身。世界ランク最高1位、ATPツアー通算単46勝、複3勝。ウィンブルドン優勝2回、全米優勝1回。オリンピックでは2012年ロンドンと16年リオ大会連覇。2015年にはデビスカップも制した。
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