久々に見た彼女のサーブは、以前と何かが違っていた。
サーブは、内藤祐希(トップ写真左。右はジュニア時代から仲の良い同期の内島萌夏。今季は二人でダブルスを組み下部大会で優勝も)の武器の一つだ。
身長は163㎝と、決して高い訳ではない。それでも、全身をバネのようにしならせて、コンスタントに時速180キロ前後のサーブが打てる。
これが新しい内藤のサーブフォーム。打つ前に引き寄せる足の動きに注目
ただ以前の彼女のサーブは、安定感に欠いていたのも確か。入れば威力十分だが、試合の中でも好不調の波があった。
そこで本人に尋ねると、「昨年末のオフシーズン、タイで練習していた時に変えました」との答えが返ってきた。
目指すは「サーブのクオリティは下げずに、ファーストサーブの確率を上げること」。
そのためにどうすべきかを、オフの練習拠点としたタイのアカデミーのコーチと、自身のコーチとの3人で話し合った。
そのときにタイのコーチが提案してくれたのが、「野球のピッチャーのフォーム」である。
「見た目はかけ離れていますが、体重移動とリズム感を参考にしました」と、その勘所を内藤は説明した。
見た目に明らかな変更点は、サーブを打つ前に右足を一度左足に引き寄せ、もう一度離してからまた引き寄せて打つフォーム。
サーブで崩しストロークで主導権を握る。深く押し込んでからドロップショットを沈めてみせる内藤
サーブを打つ前のアクションを一つ増やした狙いは、「機械のように、毎回同じ動作で打てるようになるため」だ。
「前までは知らないうちに、トスが高くなったり低くなったり、当たり損ないや詰まったりとか、忙しかったんです。でも今はリズムが取れて、トスも前より安定してきました」
確かに、打つ前に引き寄せる足の動きは、時計がリズムを刻むよう。
その新フォームで挑んだ全仏オープン予選では、高いファーストサーブとポイント獲得率を記録し、初めて予選決勝へ進出。決勝戦では、マッチポイントを逃した末の惜敗となったが、成果は確実に出ている。
「今はサービスゲームで、自信を持って打つ事ができています。まだ調子の波がありますが、このまま続けていけば、もっと大きな武器になると思います」と、悔しい結果にも前向きだ。
昨年はケガに苦しめられた内藤だが、今季は安定してツアーを回り結果も残している。
爆発力を秘めた若手の旗手の、開花の時は近そうだ。
内藤祐希(ないとう・ゆうき)
2001年2月16日生まれ、新潟県長岡市出身。ジュニアの頃から頭角を表し、2018年には全仏Jr.シングルスベスト8、ダブルス準優勝。エースを奪えるサーブと、大柄な海外勢にも打ち負けしないストロークが魅力。
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