【女子テニス】清水綾乃が獲得した新たな武器と広がる視野。そのきっかけには、意外な存在が…?
清水綾乃といえば、ショートクロス——。
先週開催された浜松ウイメンズオープン(ITF25,000ドル)の会場で、そのような声を多くの関係者から聞いた。
今大会の2回戦で対戦した荒川晴菜も、「綾乃ちゃんのバックのクロスは、バリエーションが豊富。浅くも打てる」と証言。
「ショートクロス」もしくは「アングルショット」とは文字通り、角度をつけ、ネットに近い位置に打つクロス。このボールでウイナーを取ることもできる。あるいは相手を追い出してオープンコートを作り、ストレートに展開もできる。
フォアハンドでもアングルショットを決める清水(奥)
そのキーショットを巧みに用い、浜松での清水は1セットも落とすことなく決勝へ。最後は惜しくも敗れたが、どちらに転んでもおかしくない接戦だった。
ところが当の清水は、ショートクロスに関する周囲の評価を伝えると、不思議そうに小さく首をかしげる。
「アングルショットを使えるようになったのは、正直、SBCドリームテニスの頃から。なので、アングルショットが得意と言われるのは、けっこうびっくりなんですよね」
その返答に、今度はこちらがびっくりする。SBCドリームテニスが開催されたのは、今年7月。僅か2か月前のことである。
さらには清水が明かす、習得への動機も、なかなかに驚きだ。
「アングルショットを使いたいなと思ったきっかけは、サラちゃんなんです」
清水の言う「サラちゃん」とは、先日17歳を迎えたばかりの、齋藤咲良。2週間前の牧之原国際レディースオープンで優勝した、日本テニス界のホープである。
齋藤と清水は、お互いのコーチが兄弟という縁もあり、頻繁に練習する仲。その齋藤が、1年前の『世界スーパージュニア』で優勝した際の動画を偶然YouTubeで目にした時、清水は「めっちゃ浅いボールの使い方がうまい」と驚いたという。
普段、齋藤と練習している時には「あまり視野を広く持てず、咲良ちゃんの何がそこまで良いか気づかなかった」と清水。それが客観的に見ることで、「アングルを効果的に使っている」ことを発見した。
そこからは「真似をし」、練習を重ねた。技術的には打てるようになっても、実戦で使うのには勇気がいるし、判断も難しい。後になって「今使えば良かった」と思うことも、しばしばだ。
ただそれを重ねるうちに、使いどころが分かってくる。その技術と判断力の歯車がかみあったのが、この夏だった。
肘を手術し戦線離脱した間にランキングは落としたものの、清水は世界の175位まで行った選手。25歳になったグランドスラム予選経験者が、ジュニアの技を「すごい」と認め参考にするのは、気持ち的に簡単なことではないようにも思った。
だが清水は、「ぜんぜん気にしていないです」とさらりと言う。
「ケガする前に戻ったとしても、所詮、190位くらい。アングルとかを使えるようにならないと勝てないなと思ったから、それを取り入れた。プロになったからにはグランドスラムの本戦で勝っていくことが目標ですから」
目指す地点が高いからこそ、良いと思ったものは取り入れる。その虚心坦懐な佇まいで、かつての自分を越えていく。
清水綾乃(しみず・あやの)
1998年4月11日生まれ、群馬県前橋市出身。2018年浜松ウイメンズオープンを制し、直後の全日本選手権では単・混合複で優勝。
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