「I think I am on the other side(私、反対側のはずですけれど)」
ファイナルセットが始まる直前、奈良くるみが主審にアピールした。
22日、全仏オープン予選の1回戦。第2セットを奪われ突入したファイナルセットで、対戦相手が向かったのは、本来のコートと逆サイド。主審もそのことに気づかなかったが、「あれっと思った」という奈良は、即座に主審に過ちを正したのだ。
第3セット開始直前、奈良(白のウェア)の指摘により本来のサイドへと移動する二人の選手
最初のゲームをどちらのサイドから始めるかは、些細なことではあるが、時に試合の趨勢(すうせい)を左右する。
この日はそれほど強風では無かったが、それでも追い風となる片方のサイドに、奈良はプレーしやすさを覚えていたという。
そして、奈良が指摘し立った正しいサイドは、まさしく追い風側だった。
その最初のゲームで奈良は、15-40とブレークされる危機に瀕するが、そこからは好サーブと積極的な攻めを連発してキープに成功。
するとこのキープがブースターになったかのように、続くゲームをすかさずブレーク。かくして主導権を握った奈良が、最後も“幸運のサイド”で試合を決めた。
コロナ禍によるツアー中断期間は、食事改善で体重を落とし、「自宅をジム化して」自分と向き合ってきた。ただ実戦から離れた時間が長かったため、「何が正解で、どれくらいプレーで効果が出ているのかは自分でもまだ分からない」という。
それだけにツアー再開後は手探りでの戦いとなり、2連敗を喫した。
その中で今大会、自ら追い風を引き寄せ手にした勝利は、再スタートへの大きな一歩になりそうだ。
奈良くるみ(なら・くるみ)
1991年大阪生まれ。身長155cm。小学生時代から国内タイトルを総なめにし天才少女と呼ばれる。頭脳的なプレーを中核としつつも、プロ転向後は変革を恐れず、技術やフィジカル、戦術面でも改善を重ねてきた。WTA最高32位。
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