「(防衛力の強化は)国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべき」
選挙公約になかった防衛増税を唐突に言い出し、厳しい批判を浴びている岸田文雄首相。高市早苗経済安全保障大臣が公然と反旗を翻すなど、岸田政権はもはや風前の灯火だ。
ポスト岸田を巡る駆け引きが自民党内で活発化している。勝敗を握るのは“派閥”の論理。国民不在のレースを制するのは誰だーー。
内閣支持率の低下に歯止めがかからない。12月5日に報じられたJNN世論調査で、岸田内閣の支持率は34.2%と過去最低を更新。一方「支持できない」と答えた人が61.9%と初めて6割台を超えた。自民党内では岸田首相がいつ辞めるかというのが話題になっているという。
「岸田さんは2023年5月に、地元で行われる『G7広島サミット』で議長を務めるまでは首相の座にしがみつくつもりでしょう」
そう語るのは、元朝日新聞記者でジャーナリストの鮫島浩さんだ。
「自民党総裁の任期満了(2024年9月)前に岸田さんが退陣を表明したら自民党の衆参両院議員総会で『緊急の総裁選』が行われます。党員票が勝敗を左右する通常の総裁選とは異なり、国会議員票と都道府県連票だけで争うことに。その場合、ポスト岸田派世論の人気よりも派閥の力がモノを言うことになります」
■大連立で浮上した野田元首相の名前
さまざまな世論調査で、「次の首相になってほしい人」1位になってきた河野太郎大臣は厳しい状況だという。
「前回の総裁選では党員票で圧勝したものの、国会議員票と都道府県連票で競う決選投票では岸田首相に惨敗しました。次の総裁選でも負ければ、石破茂氏のように“負け癖”がつくリスクも。それを回避するために出馬自体を控えるとみています」
一方、政治評論家の有馬晴海さんはこうみている。
「消費者担当大臣として旧統一教会を巡る問題に切り込むなど行動力と決断力に定評があり国民の人気も高い。自民党の支持率が下がるなか、風向きを一気に変えられるなら“変わり者の河野太郎でも”という空気を醸し出せば、総理の座も近づくかもしれません」
2021年の総裁選に出馬した高市早苗大臣は後ろ盾だった安倍元首相がいない今、出馬さえ難しい。安倍派のホープ萩生田光一政調会長も旧統一教会との密接な関係が発覚し、首相候補に名乗りを上げにくい状況だ。そんななか突如浮上してきたのが菅義偉前首相だという。
「首相だったときは人気もなく、最後はボロボロになって引きずり降ろされましたが、安倍さんの国葬で読んだ追悼の辞の評判がよかったこともあり『岸田首相より菅政権のほうがよかった』という声も。二階派(42人)との結束を維持し、安倍派(97人)とも関係を強めている今、菅さんは反主流派のドンに。再登板を期待する声が盛り上がってくれば『勝ち馬に乗れ』と、党内も菅さんに雪崩を打つ可能性もあります」
意外な名前もあがった。立憲民主党最高顧問の野田佳彦元首相だ。
「財政危機という緊急事態になれば『消費増税のための大連立』として暫定的に自公政権が立憲民主党と組む可能性も。その大連立の首班に首相経験のある野田さんが担がれる可能性も否定できません。実際“野田首相”を画策している財務省の官僚もいます。野田さんもその気があるのか、最近は右派系の雑誌に寄稿。自民党支持層へのアピールと考えてもおかしくないのです」(鮫島さん)
茂木敏充幹事長や林芳正外務大臣も総裁の椅子を虎視眈々と狙っていると有馬さん。
「政治能力があると言われる茂木さんと林さんも黙っていない。しかし幹事長の茂木さんは、岸田政権と一蓮托生のはず。またパワハラ体質が指摘され、党内で人気がないのが難点。また林さんは衆議院に鞍替えしたばかり。外務大臣としても目立った成果を上げていないこともあり、国民に存在を周知されていない。2人とも状況を見て『次の次』に切り替えるのではないでしょうか」
■党内事情だけで決まる首相
最後に鮫島さんがこう語る。
「麻生太郎さんは82歳ですが、政治家はいくつになっても“俺が、俺が”なんです。チャンスの芽があれば首相への返り咲きを狙っているでしょう。また、総裁選のたびに動向が注目される小泉進次郎さんですが、知名度抜群な一方で、大臣時代の実績は乏しい。議員の中で人気を得るのは難しく、いきなり次の首相になる可能性はゼロでしょう」
ポスト岸田の候補と、その実現予想は表の通り。誰がなるとしても、自民党内の派閥の論理で決まる可能性が高い。12月8日には“防衛増税”に言及した岸田首相。“国民不在”の政治はまだ続きそうだ。