「以前までのアナウンサーのキャリアは、局内で出世していくものや、退社してタレントやフリーアナウンサー、政治家に転身することが多かったです。しかし最近は多種多様になってきていますね」
アナウンサーのセカンドキャリアの変遷についてこのように語るのは、テレビプロデューサーの鎮目博道さんだ。
この春にも人気アナウンサーの転身が相次ぐ。桝太一アナ(40)は3月末で日本テレビを辞め、今後は同志社大学で助教としてサイエンスコミュニケーションについて研究していくと公言している。
「桝アナは’21年4月から総合司会を務めている『真相報道 バンキシャ!』(日本テレビ系)には引き続き出演していくそうです。
また『報道ステーション』(テレビ朝日系)でMCを務める富川悠太アナ(45)も、3月末でテレビ朝日を退社。一部メディアではトヨタ自動車に転職すると報じられています」(テレビ局関係者)
近年、他業界に転身して活躍しているアナウンサーは多くいる。
元フジテレビの菊間さん(50)は’07年に退社し、’10年に司法試験に合格。現在も弁護士として活動し、今年1月には事務所の共同代表に就任した。元テレビ朝日の青山さん(33)は’20年から国連職員として働いている。
元NHKの梶浦明日香さん(40)は伝統工芸・伊勢の職人に。元テレビ朝日の大木優紀(41)は旅行代理店に転職しており、退社後の進路は幅広い。
■取材で感じたアナウンサーの限界
元NHKアナウンサーの内多勝康さん(58)は現在、国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設・もみじの家でハウスマネージャーとして働いている。内多さんは仕事内容をこう説明する。
「もみじの家は医療的なケアが必要な子供と家族を支えるための施設です。ハウスマネージャーというのは、職場長のような立ち位置。主に広報活動や事務作業に取り組んでいます」
転職したのは’16年。NHK勤続30年という節目の年だった。
「’13年に『クローズアップ現代』(NHK総合)で、医療的ケアをテーマにした企画に携わりました」
この取材のなかで内多さんは、退院後も日常的に医療を必要とする子どもとその家族を取り巻く厳しい現状を目の当たりにする。
「番組では、『子どもから目を離せず外出もままならない』『夜も眠れない』といったご家族の言葉をお伝えすることができました。ですが、この番組は扱うテーマが毎回変わるため、私がこれ以上、医療的ケアを巡る課題を深掘りすることはできなかったのです」
それでも、内多さんの心からは「この問題にもっと深く携わりたい」という思いが消えなかった。
「1年ほどたったとき、福祉業界の方からもみじの家ができるというお話を聞きました。病院関係者以外も招き入れたいとの方針も知り、『関心があるならどうですか』と背中を押してもらったのです。『NHKではそろそろ先が見えてきた』という心境だったこともあって、新たな可能性に懸けてみようと思いました。
最近は、医療的ケアを必要とする当事者家族の要望が行政に適切に届く流れを作るため、各都道府県に医療的ケア家族会を立ち上げてもらうよう働きかけています」
■メディアの多様化でアナウンサーの注目度も低下
伊東楓さん(28)も、新たな挑戦をしている元アナウンサーの1人だ。’21年2月にTBSを退社すると、3月には初の絵詩集『唯一の月』を出版。その後も“外でも着たいパジャマ”をファッションブランドとコラボして制作するなど、アーティストとして精力的に活動している。’21年10月には自分の仕事のフィールドを広げつつ、クリエーティブな仕事をするうえで刺激を受けるためドイツへと渡った。
アーティストに転身した理由を伊東さんはこう明かす。
「情報番組を担当していたときは、誰かの代弁者として原稿を読んだり、司会をするといったことが多かったんです。我を出さずタレントたちを受け止める存在がアナウンサーなのだと、私は感じていました」
目の前の仕事にまい進していくなかで、あることに気がついたと伊東さんは続ける。
「バラエティ番組やラジオを担当し、自分の意見を言う経験を通して自分の言葉で話すことが好きだとわかったんです。万人に愛されることを目指すアナウンサーではなく自分の思いを正直に表現していく発信者でありたいと。幼いころから続けていて、夢中になれる“絵を描くこと”が私にとって表現の手段でした。
たとえリスクがあったとしてもやりたいと思えたので、迷いなく退社という決断をしました」
前出の鎮目さんは近年のアナウンサーの他業界への転身の背景をこう見る。
「そもそもアナウンサーは、頭がよくてコミュニケーション能力も高い人が多い職業。アナウンサー以外の仕事でも活躍できる能力を持っている人ばかりだと思います。
ですが、テレビ局のアナウンサーに求められるのは、番組のプロデューサーやディレクターの指示に従って振る舞うこと。自分を殺してタレントを引き立てたり、番組を盛り上げたりといったことに徹するうちに、むなしさを感じるようになってしまうことがあります。またメディアが多様化しているなかで、以前と比べて活躍の場は減っており注目度も下がっています」
そんなアナウンサーたちは別の世界を意識するようになるという。
「昔持っていた夢にもう一度チャレンジしたり、自分が本当にやりたいことに挑戦したりと、より評価される仕事をしたいと考えるようになるのです。そのため、“安定した仕事”を続けるより、放送業界ではないところをセカンドキャリアとして選ぶ人が増えているのだと思います」
勇断を下した元アナウンサーたち。新天地での活躍に期待がかかるーー。