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蒸し暑さに耐え、明治神宮前に集まっていた奉迎者たち。天皇皇后両陛下が乗られた車は彼らの前を通過していった。
「お車もゆっくりでしたし、窓も開けてくださっていましたので、雅子さまのご表情もよく見えました。笑顔で手を振ってくださいましたし、お元気そうで何よりです」
感激しながらそう語るのは現地にいた女性。
「7月21日、天皇皇后両陛下が『明治天皇百十年祭』に合わせ、東京都渋谷区の明治神宮を参拝されました。
7月8日に安倍晋三元首相(享年67)が狙撃されて亡くなってから、わずか2週間です。皇宮警察や警視庁の警護担当者たちも、かなり緊張した様子でした」(皇室担当記者)
6月下旬には、愛知県在住の男性が包丁20本を宮内庁に送り付ける事件が発生したばかりだ。宮内庁関係者はこう語る。
「同封されていた紙には、皇族を名指しした文言も印字されていました。文言の内容は支離滅裂だったそうですが、男性が一部の皇族に不満を抱いていたのは間違いないと思います。
さらに安倍元首相の銃撃事件が発生し、宮内庁内では『天皇陛下や皇族方がテロの対象になったら……』という危機感が高まっているのです。
実際、7月19日には秋篠宮さまが東京都港区で『農事功績表彰者受章祝賀式典』に臨席されましたが、壇上にも2人の護衛官が配置されるなど、以前より警護が厳重になっている印象を受けました」
神道学者で日本文化総合研究所代表の高森明勅さんも“皇室を狙ったテロの可能性”について、次のように解説してくれた。
「’75年に上皇上皇后両陛下が沖縄で過激派活動家から火炎瓶を投げつけられた『ひめゆりの塔事件』など、あってはならないことですが、皇室はこれまでもテロの対象となってきました。
テロを防止するためには、それ自体を“実行不可能”と思わせることがいちばんです。しかし安倍元首相銃撃事件は、かつて海上自衛隊に勤務していたとはいえ、特別な戦闘訓練を受けていない単独犯でも、実行可能であることを証明してしまいました。また、いまでも関連する報道が続いており、テロの影響力を社会に周知してしまうことにもなりました。
残念なことですが、安倍元首相の事件により、テロを誘発しやすい環境となっているのです」
さらに皇室ならではの特別な事情も、テロの可能性をより高めているという。
「現在の皇室典範は、女性天皇も女性宮家も認めていません。いまの皇位継承者では、次の世代を担われるのは悠仁親王殿下たったお一人です。
男系男子しか皇位が継承できない現状では、悠仁殿下お一人の安否が、皇室そのものの存亡に直結しています。こうした異常事態が、テロの威力を極大化させているのです。
今後は国会で皇統の問題を議論していくことになります。その際、悠仁親王殿下お一人に皇統を託す異常事態を維持していくのか、それとも女性天皇や女系天皇、女性宮家を認めることで、異常事態を解消するのか、そうした観点も必要だと思います。
国会で正しい議論が進められることが、皇室をテロの脅威にさらさないことにもつながるのです」
当面の危険を避けるために必要となるのは警護の増強だが、“ある問題”もはらんでいる。
■地下鉄サリン事件直後は皇族と国民に距離が
「’95年のオウム真理教による地下鉄サリン事件は皇室にも大きな影響を及ぼしました。教団幹部の一斉逮捕が始まると同時に、信者たちの報復テロに備え、皇室関連施設にも警察官が大量動員されたのです。
当時、皇太子でいらした天皇陛下と雅子さまは、ご成婚から2年ほどで人気も非常に高く、地方行啓などでは、地元の人々も奉迎のために大勢集まってきました。しかし駅頭でも、地下鉄サリン事件以前より両陛下と奉迎者たちの距離を広げざるをえなかったのです。
『こんなに離れていたら、奉迎者から皇太子ご夫妻のお顔が見えないのではないでしょうか』といったことを、警護に当たっていた警察官と話したこともありましたが、地元の県警関係者らも苦慮しているとのことでした。
仕方がないこととはいえ、両陛下も歓迎のために集まってくれている人々とふれあうことができず、残念に思われていたことでしょう」(前出・皇室担当記者)
現在の宮内庁長官を務めている西村泰彦氏は元警視総監。警察庁入庁後は警備畑を歩み、オウム真理教への強制捜査を指揮していた人物だ。
地下鉄サリン事件直後は警視庁警備第一課長として、山梨県の教団施設に機動隊を派遣。また退官後は内閣危機管理監も務めた。
“警備のプロフェッショナル”でもある西村長官の、皇室をとりまく危機とその警備体制に関する見解には注目が集まっていたが、7月14日の記者会見でこう語ったのだ。
「皇室の皆様への攻撃を想定したうえで警備計画を立てており、現場ではそれを防ぐ措置はとっています。(安倍元首相の)事件で、大きく変わることはないと思いますが、(警護関係者には)教訓を生かせるならば生かしていただきたい」
警護の大幅増強はない、という見解だったが、この発言は天皇陛下と雅子さまのご意向を受けてのものだという。
「警護を務めるのは皇宮警察、警視庁、お出かけ先の道府県警で、宮内庁長官が直接指示をすることはありません。しかし西村長官の経歴を鑑みると、今後の警護方針をしっかりと把握したうえでの発言であることは間違いありません。
また西村長官は会見で『国民と皇室の間に壁を作ってしまうのは、今までの皇室のあり方からありえない』『国民との親和を妨げない形でいかにご身辺の安全を確保するか……』などとも、語っています。
これらの発言も、『テロの脅威に屈して、国民から離れたりしない』という両陛下のお考えをしっかりと確認したうえでのものでしょう」(前出・宮内庁関係者)
■皇室に必要とされる“スマートな警護”
天皇陛下と雅子さまは、ご即位以来、“国民の中へ入っていく皇室”を目指されてきた。静岡福祉大学名誉教授の小田部雄次さんはこう語る。
「コロナ禍のために、皇室と国民のふれあう場や、国民が皇室を敬愛する機会も減少しています。
もちろん皇室の方々の安全確保は大切ですが、天皇皇后両陛下も警護を強化しすぎるあまり、さらにふれあう機会が減ったり、国民の心が皇室から遠ざかったりすることは避けたいとお考えなのだと思います。国民に威圧感を与えない“スマートな警護”を工夫していく必要があるでしょう」
大幅な警護増強は拒否され、“スマートな警護”を望まれているであろう両陛下。
「西村長官も、警護体制については“大きく変わることはない”という表現を使っています。警察官の大量動員で国民との間に壁や垣根を築くのではなく、身辺警護にたけた皇宮警察の護衛官を増員するなど、目立たないところで警護を強化していく方針なのだと解釈しました」(前出・宮内庁関係者)
7月21日、明治神宮近くで奉迎者たちを魅了した雅子さまの柔らかな笑顔には、“テロの恐怖に負けず、国民の中に入っていく”という悲壮なご覚悟も秘められていたのだ。