(撮影:御堂義乘)
「私自身、この一年間はテレビのレギュラー番組以外のお仕事は、ほとんどお断りさせていただきました。ずっとコロナ禍でしたから、講演のお仕事もキャンセルするなど慎んでおりました」
そう語る美輪明宏さん(86)。コロナ禍“負の一年”を振り返る——。
■マスクは現代版の手拭い。抵抗感がないのは当然のこと
今年一番のニュースは、やはりコロナになりますね。
人類は古代から感染症と闘ってきました。天然痘、ペスト、スペインかぜ……。日本でも平安時代に、疫病がはやったことがありました。
当時、疫病がはやった原因は、学問の神様として知られる菅原道真が、道真を妬む貴族たちによって“宮廷から追い出されたからだ”という噂が広がりました。その後、菅原道真を天神様としてお祭りして、疫病をおさめたという伝説があります。
私は常々「正負の法則」のお話をします。プラスの数と同じぐらいにマイナスもあるーー。今年はまさに、“負”の年だったと思っております。
では、コロナ禍になる前はどうだったか。どうにかこうにか景気はいい状態で、全体的には“正”の部分のほうが多かったのではないでしょうか。もちろん、場所によっては、地震や水害といった自然災害が起きた“負”の部分もありました。
しかし、新型コロナウイルスへの感染によって、世界全体で累計500万人以上も死者が出るようなことはありませんでした。
いま日本は、感染者数が減少しておりますが、ドイツや韓国といった国々では、逆に感染が広がっています。昔からドイツ人は、物事を論理的に考えるそうですが、理屈っぽくて頑固ともいわれます。
ニュース映像を見ていると、感染が拡大しているにもかかわらず、街ではマスクを着けていない人が多いことに驚きます。マスクをしない理由は、そういった頑固さからきているのかもしれません。
一方、感染者が減少している日本はどうか。マスクを着け続けることにそれほど抵抗がありません。どうしてだとお思いになります? “感染対策の意識が高いこと”や“周りに迷惑をかけてはいけない”という理由もあるでしょう。
私は、それ以外にも日本の服装の歴史が大いに影響しているのではないかと考えております。
たとえば、江戸時代に広く用いられた「頭巾」です。頭や顔を包む布製の被り物で、僧侶や武士、町人らが、防寒、ほこりよけ、そして人目を避けるために使っていました。女性たちも外をお忍びで歩くときは、「御高祖頭巾」という紫の頭巾を被っていました。
さらに、あの有名な大泥棒・ねずみ小僧も、手拭いで頬被りをしていますでしょ(笑)。
日本にはそういった被り物に対する歴史が昔からずっとあるのです。欧米には、そのような歴史がございません。あっても仮面舞踏会といった程度です。
日本人は、顔を包み隠したり、日常のなかで顔を覆う必要があるときは、ねずみ小僧のように、だいたい手拭いを使っていました。
その現代版がマスクだと思っています。感染者が減少しても、日本人がマスクを着け続けているのは、国民性として、いわば当然のこと。それが外国との大きな違いなのではないでしょうか。
私は毎日散歩をしておりますが、外に出れば、今でもほとんどの人がマスクをしています。保育園でも子どもたちは、ちゃんとマスクを着けていますし、お迎えに来られる親御さんたちも、しっかりマスクをされています。
たまに、マスクをされていない方とすれ違うことがありますが、そういう方はいかにも怖そうな顔で、頑固そうな感じの人ですね。
私は、日本に生まれて本当によかったと思っております(笑)。