「千里の道も一方通行」
「薬物依存症を治療するために、千里進もうと思ってるんだけど、一方通行で一歩も進めないし、一歩も戻れない状態。まだまだ先は見えないね」
「俺の名前が知られているから、近づいてくる悪いヤツがいるんだよ。笑い話だけど『マーシーさ、どっから覚せい剤のネタ、ひいてた(買ってた)の?』って聞かれるわけ。それで、ここからだよって話すと『ダメだよ、そんなとこからひいてたら。今度出たら、俺から買ってくれ』って営業してくるんだよ。『俺から買ったら絶対捕まんねえから』って言うんだけど、じゃあ、なんでここにいるんだよって話だよな(笑)。
「体は健康になるかもしれないけど、精神的に追い詰められて、夜、眠れない状態になっちゃうヤツも多い。それに、たいていの刑務所では、シャブ教室、略して『シャブ教』という教育があって、違法薬物とはどういうもので、どれほど恐ろしいものなのかといったことを学ぶ。でも今回、入った刑務所では、『シャブ教』すら開かれなかったよ。刑務所次第なんだね。
「仕事って、基本的には毎日、働くことが前提じゃない。でも、治療や尿検査などを受けていると、不定期で休みを取る必要があるでしょう。『この日とこの日だけは出られます』なんて、そんな甘い仕事は、なかなかないからね。以前はダルクのスタッフとして働いていたんだけど、ある事情でクビに近いようなことになってしまって。今後もダルクで治療は受ける予定だけど、スタッフとして再び雇われるのは難しい」
「新宿のハローワークに行って仕事を探したんだけど、見つからなかったな。もう66歳だしね。自動車整備工場など、出所した人たちを支援するために積極的に採用してくれるような会社もあるんだけど、薬物と出会ってしまう危険も高くなるから、躊躇してしまう。できれば、俺のことを知らない普通の会社がいいんだけど、そうなると候補が限られるし、断られてしまうよね。
「ありがちなんだけど、薬物で逮捕されて出所するじゃない。そうすると、もう2度と関わらないぞと決めて、治療も受けず、薬物をやったという過去から目を背けてしまう人がいるんだよね。でも、そういう人ほど簡単に再び手を出してしまう。
『油断大敵』じゃなくて『油断大切』といつも言っているんだけど、まずは自分の弱さを認めて、薬物をやりたくなってしまうという、その気持ちと向き合うことが大切だよ。
「以前、捕まったときは、俺やダルクに寄せられたメッセージのほとんどがバッシングだった。でも今回、捕まったとき、半分ぐらいの意見が『薬物ってこんなにやめられないんだ』という内容だったんだって。薬物依存症というのは、たいへんなことなんだってことを伝えられているんだとすれば、嬉しいよね。別に、そのために捕まったわけじゃないんだけど(笑)」