連日取り上げられている芸能界の “性加害” 問題。だが、この許されざる行為は、芸能界だけの問題ではない。
「まさか一緒に練習してきた選手同士で、あんなひどいことが起きるとは思いもしませんでした。さらに、競技連盟はJOC(日本オリンピック委員会)に対し、報告すべき犯罪行為を隠蔽していたんです。今回、競技の未来のために告発することにしました」
ボブスレー日本代表の浜野達也選手(28)は、そう憤る。
ボブスレーは、複数の選手がそりに乗ってタイムを競うウインタースポーツ。日本は1972年の札幌五輪以来、12大会連続で五輪に出場してきたが、2018年の平昌五輪に続き、今年2月に開催された北京五輪にも2大会連続で出場できなかった。そんな代表選手団に、いったい何が起きたのか。
今回、本誌は事件が起きた日時や場所、個人名もすべて確認しているが、被害者などが特定されないよう、あえてぼかして記述することをお許しいただきたい。
事件が起きたのは数年前のこと。練習後にコーチ提案のもと、リフレッシュ目的で開かれた宴会で、男子選手のAが、その飲み会にはいなかった女子選手のBさんに好意を持っていることを浜野選手らに打ち明けたという。
「宴会後に宿泊所に戻ると、ロビーでBさんとAが話をしていたので、僕らは自分の部屋に戻ってすぐに寝ました」
しばらくしてBさんからLINEで「すぐ部屋に来てほしい」と、別の選手宛てに助けを求めるメッセージが届いた。
「『今行く』と返信して彼女の部屋に駆けつけると、Bさんが部屋から飛び出てきました。あとを追うように出てきたAに『何をやっているんですか』と問い詰めましたが、泥酔している様子でした。Bさんは『押し倒され、服を脱がされそうになった』と震えていました。
Aは100kg超の大男なので、いくらアスリートといえど、Bさんは逃れるのがやっと。Aが『宿泊している部屋に入れなくなった』と言って、Bさんの泊まっている部屋に入って来たのだと泣いていました。困っている仲間を見て、断われなかったのでしょう」(別の代表選手)
事件を知った日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟(以下、連盟)は、宴会に参加していた男子選手のうち、Aと浜野選手を含む4名を呼び出し、連盟の北野貴裕会長(北野建設社長)をはじめ、ほかの幹部や弁護士が同席して、個別に事情聴取をおこなったという。
「Aはすぐに除名処分になりましたが、『ほかの代表選手から宴席でそそのかされて無理やりやらされた』と弁明したため、何もしていないのに僕を含め2名が戒告処分になりました。納得いきませんでしたが、連盟に逆らえば自分の選手生命もここで断たれると思い、やむを得ず始末書を書きました」(浜野選手)
さらに浜野選手が憤りを隠せないのは、連盟からJOCへの報告だ。問題が生じた場合、連盟は上部団体であるJOCに報告しなければならない。
しかし、レイプ未遂事件が起きたにもかかわらず、連盟はたんに「ハラスメントがあったため、選手2名を戒告処分にした」と、報告をしたのみだったという。もちろん、Aが刑事責任を問われることもなかった。
「連盟は補助金のカットなどを恐れて、JOCに虚偽の報告をしたのです。不都合な真実を隠蔽する体質が、連盟にはあります」(同前)
なぜJOCに「ハラスメント」という虚偽の報告をしたのか。連盟に質問状を送ったが、「当該事案の複数の関係者から事情を聴取した結果、『ハラスメント』に当たると判断したことから、その旨をJOCに届け出ています」という回答だった。
また、JOCからは、期日までに回答はなかった。ちなみに、連盟の北野会長は、JOCの常務理事でもある。
DVや性暴力問題に詳しいあおば法律事務所の橋本智子弁護士も、連盟の問題点を指摘する。
「今回の事案は、強制性交等未遂といえます。性行為に至らずとも、押し倒すなどの暴力を行使しており、被害女性が刑事告訴すれば確実に罪に問われたでしょう。連盟の『ハラスメント』という言い方は事態を矮小化する言い換えで、法的には『性犯罪』と呼ぶべきものです」
今回、取材した選手らによると、連盟の隠蔽体質はほかにも、コーチの飲酒運転や当て逃げなど、枚挙にいとまがないという。現役代表選手が実名でおこなった今回の告発を、連盟が闇に葬ることは許されない。
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