「スパイスがきいていて本当に美味しいです。毎回メニューが違うので、近所にあればな、といつも思ってしまいます」と、田中はスプーンが止まらない様子。
「(マスターとは)金沢にいた15歳のころからの知り合いです。デビューするタイミングも同じ時期で、お互いに東京で頑張って続けられているというのは、すごく励みになるというか。頑張ろうというモチベーションになっています」
「すごく人見知りだったので、女優が自分に合っているのか疑問でした。憧れて入る人が多い芸能界に、何も知らずに紛れ込んでしまった感覚に近かったのかもしれないです」
「(あぐり役は)オーディションだったのですが、児童劇団でちょっとお芝居をしたことがあるくらいのほぼ素人だった私が受かるとは思ってもいませんでした。今考えても、あのときは見えない力に背中を押されていた感じ。すごく不思議な気分でした」
「全然連絡がなかった方たちからも連絡をもらったり。自分が変わらないのにまわりがどんどん変わっていくことに戸惑いを感じました。
「義母を演じた星由里子さんは私の体を心配して、毎回お弁当を作ってきてくださって。本当に皆さん家族のように和気あいあいと接してくださり楽しかったです。
「『これからプロとしての仕事が始まるよ。厳しい世界だけど頑張って』と。実際に次の現場に行って、本当にこの言葉が染みました。自分の実力不足とみんなの期待、現実とのギャップに悩みました」
「自分の実力が追いつかないジレンマみたいなものは感じていました。当時は喜怒哀楽の喜と楽があればいいと思っていたのですが、やっぱりそれだけではダメだったんですよね。痛さとかつらさを大丈夫と見て見ぬ振りをしていたら、体が壊れちゃいました」
「竹下景子さん、篠田三郎さん、山本陽子さんら錚々たるキャストとご一緒だったのですが、皆さん本当に優しくて。お芝居ができなくなったときに山本さんから『わかっているから、何も言わなくても大丈夫よ』と励ましの言葉をいただいたり、竹下さんが監督に『私ができることはないですか?』と言ってくださったり。自分は人に恵まれているとあらためて感じました」
「監督には『今は分厚くて高い壁に感じるかもしれないけど、いつかはそれが障子くらいの薄い壁に思えるときがくる。だから今は乗り越えなくてもいいから続けていってほしい』と言われたんですよ。
「五十嵐監督は厳しく、そこにみすゞさんがいないと撮ってくれませんでした。それが最初は難しく、理解できず……。ただあるときから、みすゞさんだからこう動くみたいなことを頭で考えなくなり、自然と体が動くようになっていったんです。撮影だからとセーブしていたことが取り払われた瞬間でした。
「演技には正解がないので確実にクリアするという感覚はないですが、振り返ったときに、こういうこともできるようになったと気づかされることが多いです。それも、続けているからこそです」
「演じたことがない役をいただくと、可能性を見つけてくださった気がしてすごく嬉しくなります。
「最近、どんどん楽天的になってきて(笑)。ちょっとの失敗も笑えるようになりました。
たなかみさと
1977年2月9日生まれ 石川県出身 1996年、「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。1997年に連続テレビ小説『あぐり』(NHK)のヒロインに選ばれ女優デビュー。『WITH LOVE』(1998年、フジテレビ)、映画『みすゞ』(2001年)、大河ドラマ『利家とまつ』(2002年、NHK)などに出演。韓国ドラマ『冬のソナタ』などでチェ・ジウの吹き替えも担当している。2019年には、彼女自身がプロデュースする帽子ブランド「Jin no beat shite cassie」を立ち上げるなど、活躍。出演映画『人』が全国順次公開中
【スパイス越境】
住所/東京都立川市高松町2-1-23
営業時間/11:30~14:00
定休日/月曜~木曜 ※営業日は、Instagram(@spice_ekkyo11)で確認
写真・木村哲夫
ヘアメイク・根津しずえ