福岡の老舗旅館が大浴場の湯を年2回しか換えず、基準値の3700倍ものレジオネラ菌が検出された衝撃の事件から約8カ月。この問題の影響による負のイメージを払拭するため、各地の入浴施設で営業時間を削ってまで清掃が強化された。
だが、なおもレジオネラ菌の検出例は相次いでいる。今年9月には、福井の温泉施設「セントピアあわら」で、基準値の2300倍ものレジオネラ菌が検出され、9月26日から営業を休止した(11月3日再開)。
同施設は、入浴に加えて食事なども楽しめる「スーパー銭湯」だ。スーパー銭湯は、家族連れはもちろん、昨今急増中のサウナ愛好家も多く利用する憩いの場となっている。
はたして、全国のスーパー銭湯は安全なのか。本誌は温泉ジャーナリストの協力のもと、関東と関西でとくに人気の施設を計12店舗選定。大浴場から採取した温水の検査を、専門機関である食環境衛生研究所に依頼した。
結果、関西のA温泉とB温泉の2施設からレジオネラ菌が検出された。しかも、B温泉の菌の量は、基準値の21倍の210cfu/100ml、そしてA温泉は8倍の80cfu/100mlだった(※cfuは菌の集団数を示す単位で、100mlにつき10cfu未満を厚生労働省は不検出と定める)。
各施設には、「結果に対する見解」「清掃・消毒の方法」「過去の感染例」について問い合わせ、回答をまとめた。今回、最大の菌数が検出され、説明責任を果たすべきB温泉は、取材を断固拒否し、回答しなかった。
微生物生態学が専門で、レジオネラ菌の分布調査をおこなう麻布大学教授の古畑勝則氏は、今回検出された2施設についてこう見る。
「21倍と聞くと驚くかもしれませんが、これらの数値は即、多数の感染者が出るということを意味しません。とはいえ、この2つの銭湯は、保健所などの指示を仰ぎ、早急に対処しなければなりません」
温泉ジャーナリストも、同様の見方を示す。
「A温泉は手本となるほどの清掃や消毒をおこなっていて、それでもレジオネラ菌は出るのだなと認識を新たにしました。何かのきっかけで急に増殖する可能性があるので、この結果には驚きませんが、一度しっかりと対応し、基準値以内に戻してほしい。レジオネラ菌との戦いはイタチごっこなので、根気強く丁寧な清掃を続けるしかありません」
スーパー銭湯にはつきものの設備について、古畑氏は注意点を指摘する。
「『打たせ湯』『ジェットバス』などは飛沫が多く発生し、仮にそこで菌が増殖していた場合、感染リスクは高まります。ですので、今回検出されなかった店舗も、ぜひその衛生管理を継続していただきたい。
また、源泉をかけ流しにすることで浴槽水がすべて入れ替わると誤解されていることがありますが、完全換水をしなければ湯全体が新しくなることはないので、その点はきちんと理解する必要があります」
利用者が心がけることは?
「各所で清掃ができているかどうかを確認したり、浴槽内をさわってみて違和感があれば入浴を控えるということが、自衛策になります」(古畑氏)
「レジオネラ菌の感染症では、肺炎などが知られていますが、重症化すると死者も出るほど。発熱や下痢などの体調不良が表われたら、早めに病院で受診してください。
また、利用者には入浴前にしっかりとかけ湯をし、菌類を浴槽に持ち込まないというマナーが求められます。利用者と運営側が一緒になってレジオネラ菌に対処しながら、清潔で安全な入浴を楽しみたいものです」(温泉ジャーナリスト)
疫学的には、酒好きや喫煙者の男性の重症化リスクが高いとされるレジオネラ菌。写写丸世代には耳が痛いが、サウナ好きの人も要警戒だ。
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