侍JAPANが世界を舞台に4連勝と活躍するなか、あるソフトボールチームも“世界デビュー”を果たしていた――。
「ここがチャンスや! 気合入れて打てや!」
東京都葛飾区にある市民球場に、やたらと迫力のある声が響き渡る。それもそのはず、元々、“そちらの筋”の方々なのだ。彼らの懲役を合計すると、87年にもなる。
本誌が2021年1月に取り上げた、メンバーのうち約30人が元ヤクザというソフトボールチーム「竜友会」は、葛飾区ソフトボール連盟に加盟して8年、優勝経験もある強豪チームだ。監督の竜崎祐優識氏が成り立ちを語る。
「もともと、葛飾区を選挙区とする平沢勝栄衆院議員に『組織を脱退した人の受け皿を作ろう。元組員を集めてソフトボールのチームを作らないか』とすすめられたのがきっかけです。私自身、甲子園球児だったこともあり、2012年に結成しました」
竜崎氏自身、元五代目山口組系傘下組織の特別相談役だった。元住吉会、元松葉会など、現役時代は敵対する組織にいたメンバーも、チームでは呉越同舟している。
このチームを特集した記事が、2月14日付の『ニューヨーク・タイムズ』の1面に掲載されたのだ。タイトルは「What’s an ex-mobster to do?」(元ギャングたちは、何をやるのか)。1面と、8面のほぼ全面を使った長文のレポートで、竜友会の普段の活動のほか、チームに入ったことで覚醒剤をやめたメンバーの様子や、彼らの日常生活、日本でのヤクザが置かれている現状が克明に描かれている。
記事を執筆したのは、ベン・ドゥーリー記者。東京支局に赴任して5年になるという。
「学生時代に日本に留学し、5年前から東京支局に赴任することになりました。米国内では、マフィアを取材することはまずありえないし、マフィアが顔を出すこともありません。でも、日本のヤクザなら取材できるかもしれないと思っていました。東京支局に赴任したころから、本格的にヤクザを取材したくなりましたが、どうやって取材できるのかわかりませんした。
そこで竜友会の存在を知り、彼らの日常生活や人生まで、きちんと紹介しようと思い、2022年3月から半年あまり、密着取材をしたんです。皆さん、フレンドリーで優しいですよ」
実際、記事中では両手の小指を詰めた選手を紹介し、「伝統的に、ヤクザを離れる際は、指の関節を犠牲にする必要がある」など、細かな習慣を説明している。
記事は米国内で反響を呼んだという。ドゥーリー記者が続ける。
「とてもおもしろい記事だ、と反響がありました。米国内では、ヤクザや日本の闇社会に対しての興味や関心が非常に高いのです」
『ニューヨーク・タイムズ』に紹介されたことで、竜友会にも異変が起きていた。
「記事を見て、チームに入りたいという問い合わせが殺到したんです。すでに7人が新しく加入することになりました。女性のピッチャーもいますよ。なかには現役の組員からも問い合わせがありましたが、さすがに現役はお断りしました。
外国人からも問い合わせがありましたが、いきなり英語で話すので、よく内容がわからず……。竜友会を取り上げた映画の制作の話も進んでおり、記事の反響には驚くばかりです」
今後、記事は中国版、メキシコ版、英国版でも紹介される予定だという。こっちの“侍JAPAN”も負けていないようだ。
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