高知東生 ヤクザの父、自死した母…重松清氏も絶賛の自伝的初小説にこめた思い
「本当に自分で書いたのか? ハハハ、読んでいただいた方、ほぼ全員からそう言われるんです。でも、本当に自分で書きました(笑)。何度も書き直しはありましたが」
「僕は本をまともに読んだことがなく、漢字は知らないし、小説のイロハもまったくわからない。当初はお断わりしたんです。薬物事件の後、臆病になっていた自分がいて、もう一度、どうやって一歩を踏み出せばいいかわからなかった。もし書いて『やっぱりダメだった』と思われたら、やり場のない気持ちをどこに持っていけばいいのかと」
「一緒に依存症から回復を目指す仲間が『あんたね、世の中に小説を書きたい人が、どれだけいると思ってるの! やるだけやってみようよ』と、背中をバ~ンと押してくれたんです。それで吹っ切れることができました」
《「お母ちゃんはね、アロエの葉のような人でよぉ。見かけはちっとも綺麗やない。けんど食べても身体にええし、怪我した時は薬にもなる。しかも手をかけんで放っちょいてもすくすく育つ。それに引き換えうちはねぇ、さしずめ牡丹の花やね。みんなが『綺麗や、綺麗や』ゆうて大事にしてくれる。けんど花はいつかは枯れる。その時は見向きもしてくれん。アロエはどんと根を張って重宝される。大事にされんようで、ホンマに大事にされるのはアロエの方やと思う」
「子育てもろくにしなかったお袋でしたが、そのルーツを真剣に辿っていくと『ああ、俺はお袋に愛されていたんだな』って、それがわかった瞬間がありました。そのとき、まずはお袋への感謝が、そして “きっとお袋はこんな人生を歩んできたんだろうな” という映像が浮かんできたんです。自然に涙が溢れてきて、泣きながら書きました」
■芸能界の関係者は姿を消したがーー
「上京するとき、地元の仲間たちは『お前は俺らの分まで夢引っさげて、暴れてこい!』と送り出してくれた。僕は、その仲間も裏切ったわけです。でも彼らは、僕がどんな状況に置かれていても、変わらずそばにいてくれる。『一人じゃない』と思い出させてくれる、この場所と仲間は宝なんです」
『土竜』はいったん完結したが、竜二、いや高知の人生はこれからも続いていく。
「もう還暦近いですけど、僕の中ではやっと成人式を迎えられたような気持ちです(笑)。自分がどのように生き直していくかが、償いだと思っています。今後も依存症に苦しむ人へ啓発活動を続けていきます。それと、ありがたいことに先日、映画出演のオファーが来てね。地方でオールロケで撮るんですよ。いま最善を尽くして積み重ねていくことで、未来が見えてくるのかな、と思っています」
「すべてをさらけ出せる、今がいちばん幸せです」
たかちのぼる
1964年生まれ 高知県出身 1993年に芸能界デビューし、大河ドラマ『元禄繚乱』(NHK)、映画『新仁義なき戦い/謀殺』などで活躍。2016年、覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕。現在は依存症の啓発活動にも力を入れる
写真・久保貴弘