男性の身長が「170(センチ)ないと、正直人権ないんで」、胸が「Aカップ(の女性)に人権なくない?」「人権ないんだ、と思いながら生きていってください」と、2月15日に「Mildom」での配信中に放言した女性プロゲーマー・たぬかな選手。その後のスポンサー契約解除、チーム解雇は既報のとおりだが、この件を取り上げたキー局の“あるシーン”もまた、問題視されている。
「フジテレビさんもなんで流しちゃったかな、編集できる範囲ですよ」
テレビ情報誌の経験が長いベテラン記者に尋ねると、彼も疑問に感じていた様子。
2月20日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)において、トラウデン直美の弟でタレントのトラウデン都仁が、今回の件について「ブラックジョークとして楽しむぶんには、まあ、人によっては楽しめるものなんではないかなとは思うんですけど」「たぶん今回の炎上で燃やしてるのはたぶん、ほとんどの人が(身長)170以下の方なんではないかなと」と、私見を述べたのだ。
「なぜ、編集もされずに本放送で使われたのか。あれをおもしろいと思ったんですかね」(前出・テレビ情報誌記者・以下同)
筆者も同感で、この発言をリアルタイムで観ていて唖然としてしまった。彼の発言は、前述のプロゲーマーの放言を悪い意味で補完してしまっている。所属団体やスポンサー、ファンはもちろん、多くの一般の方々までもがこうしたヘイトに毅然と対応すべきと声を上げているのに、よりにもよってテレビ局が全国放送で「ブラックジョークなら楽しめる」「怒っているのは身長の低い連中」という趣旨の内容を放送してしまった。
「トラウデン(都仁)さんが言ってしまったことは仕方がない、そういう人なんでしょう。ただ生放送ではないのですから、コンプライアンス上問題があるならカットしてしまえばいい話です」
まったくそのとおりで、内容の是非はともかく番組サイドで対応できる話。それについて、記者はこう続けた。
「現場の一部、とくにベテランの中には、いまだにヘイトをおもしろがる土壌があるのは否定できません。昔は許されていたので、いまだにブラッシュアップできていない“おじさんたち”の判断で流してしまったのでしょうか」
身体的、性的な障害を差別的におもしろがる文化が昭和のメディアに根づいていたことは否定できない。そして、それをおもしろがる視聴者もいた。しかし現代は違う。組織やスポンサーは毅然と対処する。日本人の多くもまた、自身の身長の高低やバストのサイズとは関係なしに「それはいけないこと」と声を上げる。自分の力でどうにもならない特定のハンディキャップや、身体的なコンプレックスをあげつらってはならないことは、すでに常識なのだ。
「視聴者が喜んでくれると思えばリスクは負いますけど、今回の内容は完全に(身体上の)ヘイトですからね、いまの時代、炎上するに決まってます」
実際、当の番組出演者の間でもあきらかに空気が変わっていたという。
「『これはマズい』って空気でしたね。しかし、トラウデン(都仁)さんが180cmあるという理由で『(身長が高いことは)人権しかありません』なんて、ほかの出演者の声も入ってましたが、これもカットしてませんでした」
こうした発言には、現場の混乱と気の緩みも一因だったという。
「この放送は、松本人志さんと東野幸治さんが新型コロナ感染による影響で代役が立てられたなかでの収録でした。なので、そもそも現場が混乱している状態でした。とくに、東野さんがあの難しい番組を仕切っている。彼がいないと現場が引き締まらないんですよ」
現場レベルで考えれば編集事案だったはずが、そのまま放送されてしまったということか。
「誰も得しない結果になってしまいました。もう差別をおもしろがったり茶化す時代ではないんですが、古いテレビマンの中にはいまだに視聴者なんてそのレベル、と思ってる人もいるんですよ」
今回の件で、ごく一部の古い価値観の人とアップデートされた多くの日本人との相違がますます浮き彫りとなった。「誰も得しない」とはそのとおりで、もう多くの視聴者は、こうした発言を求めていない。かつての「楽しくなければテレビじゃない」のフジテレビ、もうヘイトを「楽しい」と感じる視聴者なんていないと思ったほうがいいはずなのに。
端緒となったゲーム界隈はもちろんだが、報道する側にもいっそうのアップデートが求められている。
日野百草
ノンフィクション作家、俳人。 1972年、千葉県野田市生まれ、日野市在住。日本ペンクラブ会員
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