12月13日、アメリカの雑誌『タイム』は、2021年の「パーソンオブザイヤー(今年の顔)」に、実業家のイーロン・マスク氏を選出した。マスク氏は、電気自動車企業「テスラ」と宇宙開発企業「スペースX」のCEOとして知られ、総資産はおよそ30兆円にのぼる。
「テスラ」は、世界トップの電気自動車会社で、今年10月には時価総額100兆円を突破した。また、「スペースX」は、人類初となる “民間人のみの宇宙旅行” を成功させるなど、さまざまな功績が高く評価されての選出となった。
「今年の顔」は、1927年から始まったもので、その年にもっとも影響力を誇った個人や団体が選ばれる。今年の最終選考には、ア・リーグMVPに輝いた大谷翔平や、東京五輪の聖火ランナーを務めた大坂なおみなどの日本勢もリストアップされたが、残念ながらマスク氏に敗れた形だ。
世界的な起業家として名声を誇るマスク氏だが、日本好きな一面はあまり知られていない。『イーロン・マスク 次の標的』の著者で、国際政治経済学者の浜田和幸氏がこう話す。
「彼は南アフリカで生まれ育ちました。小さい頃は小柄で、まわりの同級生からいじめに遭ったといいます。本が好きで、空想癖があり、それがまわりの子たちに違和感があったようで、階段から落とされて重いケガをしたこともあります。
自分を守らなくちゃいけない、ということで取り組んだのが、日本の武道です。特に空手に興味をもち、小さい頃から道場に通っていました」
実際、マスク氏はSNSなどで頻繁に「Dojo(道場)」という言葉を使う。2020年8月15日には、「テスラは、膨大な量の動画データを処理するためDojoと呼ばれるコンピュータを開発中」と書いている。
そんなマスク氏が関心を寄せているのが、日本のアニメだ。
「彼は、アニメを通じて、武士道への理解を深めようとしました。アニメで知った切腹という言葉を使い、『気分はサムライだ。失敗するより切腹したい』などと話したこともあります。
最近だと、『君の名は。』がお気に入りのようで、しょっちゅう話をしているといいます。作中に登場する “ユキちゃん先生” のように『〜ちゃん』という表現もよく使います。自分のことを『イーロンちゃん』と呼んだり、人を『〜さん』と呼んだりするんです。ほかにも『賭ケグルイ』のTシャツを着たり、『新世紀エヴァンゲリオン』や『もののけ姫』も好んでいます」(前出・浜田氏)
マスク氏は、2014年に来日した際は、安倍首相(当時)をはじめ、多くの経営者と対談している。都内の「ラーメン二郎」を訪問するなど、日本を堪能した様子だった。
「日本では、安倍総理とあちこち見てまわったり、ホリエモン(堀江貴文)や前澤くん(前澤友作)と対談したり。『超絶!ナノニの法則』(TBS系)など、お笑い番組に出たこともあるんです。
このように、一般の人たちに溶け込んで、自分の魅力をアピールする能力には非常に長けています。日本でもテスラの自動車がもっと売れるようにファンを増やそうと工夫しているんだと思いますね。
彼のビジネスにとって、日本は欠かせない存在です。電気自動車も、パナソニックからバッテリーの供給を受けていました。
彼のビジネスは、すべて自前でやっているわけではなく、日本の進んだ技術を活かしたり、世界中から資源を取り寄せて実現しています。そういう意味では、日本だけでなく、世界とのつながりに対して、神経を尖らせているんです」(同)
それにしても、なぜマスク氏は「今年の顔」に選ばれたのか。
「人類が直面している課題、たとえば環境問題、エネルギー問題、貧富の格差、自然災害……こういったものに対して、彼なりの解決方法を提示し、実行して、ビジネスとして成功させています。
単に夢物語を語るのではなく、その夢物語を現実のものにする。そのために人材や資金を集め、ビジネスモデルを作ってしまう。そうした姿が、『今年の顔』に選ばれた理由だと思います」(同)
マスク氏は、日本文化で培ったパワーで、未来を創っているのだ。
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