人気YouTuberのはじめしゃちょーが、精子の凍結保存をおこなったことを動画で報告した。決断の理由は「結婚が遅くなって子供が欲しいなって思ったとき、子供ができにくくなっていたら、『自分の子供の顔が見られないのか』と最近真剣に悩みまして」と明かしている。
はじめしゃちょーは、凍結前の診察で、精子の形が正常でない「形態異常精子」が見つかったことも明かしている。形態異常精子とは、男性不妊の原因となりうる「精子異常(精子形成障害)」のひとつだ。
大宮エヴァグリーンクリニック院長で、泌尿器科専門医の伊勢呂哲也医師は、次のように解説する。
「精子異常(精子形成障害)は、男性不妊の原因の約90%を占めるといわれます。精子のオタマジャクシの尾の部分が2本あったり折れ曲がっていたり、頭部が変形した状態のことをいいます」(伊勢呂医師、以下同)
形態異常精子の原因は、明らかになっていない。精子はさまざまな影響を受けやすいため、男性の精液中には、形態異常精子は必ず含まれている。通常はそれでも問題ないが、形態異常精子の数が多くなれば、自然妊娠が難しくなる傾向がある。
「原因が明らかになっていないとはいえ、生活習慣が影響することは否定できません。疲労やストレス、喫煙や過度の飲酒、肥満、睡眠不足、高熱などが精子の形成に大きなダメージを与えると考えられています。最近、流行しているサウナも、長時間の利用は注意が必要といえるでしょう」
はじめしゃちょーは、現在、30歳。3億円の自宅にサウナを設置したことも話題になったが、動画では寝不足や暴飲暴食も告白している。
精子の冷凍保存について、三軒茶屋ARTレディースクリニック院長、坂口健一郎医師は、次のように話す。
「精子は毎日作られますので、若いときに精子を凍結するメリットはないと思います。正常形態率が低くても、体調によってかなり差が出ます。加齢による精子のダメージはありますが、まずは生活習慣を改善することが重要だと思います。
正常形態率は4%以上が基準となっていますが、それ以下でも、奥さまが妊娠される方もおられます。精液量、濃度、運動率のトータルで考える必要があるため、正常形態率が低いという理由だけで精子凍結をおこなう理由にはならないと思います」(坂口医師、以下同)
では、精子凍結が必要なケースとはどういった場合なのか?
「抗がん剤や放射線治療をおこなった場合、治療後に無精子症などの性腺機能障害が起きる可能性がありますので、若い方や未婚の場合でも、精子凍結をおすすめすることがあります。
また、不妊治療をおこなっているご夫婦やカップルで、女性が採卵する日に男性が出張などで不在にする場合、事前に精子を凍結しておくことがあります」
女性の場合、性染色体異常症の人が年齢を重ねると、急激に卵子数が減少することがあるため、卵子を凍結するケースはあるが、坂口医師のクリニックの場合、男性が精子を凍結しておくのは上記2パターンのみだという。
「精子凍結をおこなう前に、精液検査と感染症検査が必要です。精液検査では、精液の量、濃度、運動率、運動の質、精子の形態などを調べます。
2~4日間の禁欲期間(射精しない期間)を設けていただき、病院で採取する場合は、別室で用手法(マスターベーション)によってご自身で採取していただきます。ご自宅で採取して提出することも可能です」
精子数や運動率が極端に少ない場合、凍結が難しい場合もあるが、問題なければ、精子凍結へ進む。運動性の高い精子を集めるために精子の洗浄・濃縮をおこない、−196度で凍結し、保存するという流れだ。
「精子凍結は自費となります。診療、精子検査、凍結保存まで3万円前後で、医療機関によって異なります。また通常は、保存には1年ごとに更新料がかかります」
ただ、不妊治療のために精子凍結をおこなう場合、注意点がある。
「じつは、当院では凍結精子を使った人工授精(細いチューブで精子を子宮内に注入して受精させる方法)は実施しておりません。凍結した精子を解凍すると運動率が半分以下になるため、人工授精のために精子を凍結することは一般的ではないのです。
精子の形態異常率の悪化は、日々の生活習慣を意識しておけば、そこまで心配することはありません。将来、子供を希望するときに形態異常精子があっても、顕微受精(顕微鏡を見ながら卵子に精子を針で直接注入する受精法)をおこなうので、やはり若いときに精子を凍結する理由はないと思います」
はじめしゃちょーが精子凍結を決断した理由に、将来への不安があったのはたしかだろうが、一般の30歳の男性にとっては即座に選ぶべき手段ではなさそうだ。
取材&文/吉澤恵理(医療ジャーナリスト)
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