「おっさん! おい、詐欺師!」
強面の男が、白シャツに黄色い短パンの、初老の男を強引に呼び止める。この初老の男こそ、「パパ活詐欺師」として知られる鈴木(仮名)という人物だ。8月末のある夕方、渋谷の雑踏のなかで、その騒動は始まった――。
本誌が鈴木を初めて目撃したのは、2023年の2月。彼から被害を受けた女性は、本誌にこう語っていた。
「私は、鈴木にパパ活でお金をだまし取られたんです。被害者は、私を含めて10名以上いることがわかっています。被害後にブロックされて音信不通になっていたのですが、今回、おびき寄せることに成功したんです」
鈴木の手口はこうだ。パパ活目的の女性に、アプリで偽名を使い、接近。「初めに15万円渡す」などと好条件を突きつけ、女性をその気にさせる。そのうえで「あなたを信用するために、デポジットとして4万円ほしい」と約束させるという。当日、待ち合わせの際、鈴木は自分が持っている封筒に15万円が入っていることを女性に確認させ、彼女からのデポジット4万円を預かる。そして、15万円の入ったほうの封筒をコインロッカーに預け、“行為”に向かうが、途中、「電話がかかってきた」などと言い訳し、そのまま逃亡するのだという。女性があわててコインロッカーを確認するも、なかには封筒に厚みを出すための段ボールと、おもちゃの1万円札が入っているのみ――。
結局、鈴木は、女性が持ってきた4万円を持ち去り、姿をくらませてしまうのだ。
2月に歌舞伎町で鈴木を待ち伏せしたのは、前出の女性をはじめとする被害女性と、彼女らを手助けするべく集まった男性陣。本誌はこの日、おびき出された鈴木が男女20名ほどに問い詰められ、憔悴した姿で交番に駆け込む様子を目撃している。その姿に、「もう被害は起きないだろう」と、誰もが一安心したはずだが……。
その「パパ活詐欺師・鈴木」が、今度は渋谷に現れた。
前回も女性を手助けした男性のひとりが、今回の経緯を説明する。
「前回の後、鈴木による被害の報告が10件以上も寄せられました。新宿の騒動後も、鈴木は『パパ活詐欺』をやめていないんです。手口も前回とまったく同じ。本当にあきれましたよ。
それで今回も、鈴木にだまされた女性が彼に責任を求めるべく、ここ渋谷で待ち伏せしています。前回同様、女性だけでは危ないため、僕らも一緒に待つことにしました」
彼らの協力のもと、「おとり」女性が鈴木を渋谷に呼び寄せた。鈴木が待ち合わせ場所に訪れたのは、16時過ぎのことだった。
マークシティ下のATMの陰で、封筒に入った19万円を確認した鈴木とサトミさん。それをコインロッカーに預けると、2人で円山町方面へ歩いていく。ラブホテルに入ろうとしたその時、男性らが声をかけた。
「おい、おっさん! この子から4万パクったろ!」
「人、だますなっつってんの!」
「いい年して人だまして金稼ぐんだ?」
「彼女が被害者ってことを認めないんですか?」
じつは、この「おとり」女性、一度、鈴木から詐欺の被害を受けたことがあるのだという。過去にだました相手であることに気づかないほど、鈴木は女性には無関心のようだ。
次々に声をかけられて驚く鈴木だが、背中に怒号を浴びせられながら、いそいそと道玄坂方向に逃げていく。追う被害女性と男性陣。鈴木は「返しますよ」「すみません」と口にし、早々に“嫌疑”を認めるも、けっして女性のほうを向かずに、逃げの一手。さらには「警察行きましょう」とこぼした。そして、スクランブル交差点に差しかかったとき、鈴木の袖口を被害女性がつかんだ。
「逃げんな! おい!」
しかし鈴木は歩みを止めない。渋谷駅前交番に駆け込むも……交番には警官が不在。「交番、どこですか?」と、別の交番の場所を男性たちに聞く鈴木だが、帰ってくるのは当然、怒号だけだ。高架下を抜けるも交番が見当たらず、あせった鈴木は、なぜか警備員に話しかけ、助けを求める。
「おい! 警備員は警察じゃねえんだよ!」
警備員は、大勢の強面の男性と怒りに燃える被害女性に気圧され、ただ近くの交番の場所を教えるだけ。やっとのことで警察官にたどり着いた鈴木は、その後、署に連行されていった。本誌が、被害女性らとコインロッカーを確認すると、やはり封筒からは、段ボールとおもちゃの札が出てきたのだった――。
被害女性が、その後の顛末を語る。
「私もその後、警察から事情聴取されました。警察が言うには、被害届は出せない、民事で訴えるしかないとのことです。私も売春目的で男性に会っていたので、私にも非があるということです。
鈴木は、言葉では『懲りている』と言っていたものの、絶対にまた同じことを繰り返すと思います。私の3分後に署から出てきましたが、その直後には、パパ活アプリで彼のアカウントがオンラインになっていたんです。彼の“復活”がこんなに早いとは(笑)。ぜんぜん懲りてないですよね」
そう肩を落とす被害女性。鈴木にだまされた過去を、こう振り返った。
「彼は、もう何十回も同じ手口でやってるんでしょう、私も言葉巧みにだまされてしまいました。自分も、警戒心が緩んでいたのだと思います。いまでは『なんでこんなおじさんに引っかかってしまったのか』と、自分への怒りが大きいです。
ただ、警察への怒りもあります。もちろん、売春目的のこちらにも非があるのはわかっており、被害届が出せないのも理解はできますが、こういう男の人が捕まらずに、被害に遭う女の子が増えることを、何とも思わないのか疑問です」
煮え切らない思いを抱える被害女性だが、警察によれば「次に同じことがあれば捕まえる」そうで、現状では、訴える気はないという。「パパ活詐欺師」は、いまも野放しにされているのだ――。
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