一部の客室から露天風呂が丸見えなのを把握しながら、放置して稼働し続けていた温泉宿が“炎上”している。4月6日配信の「産経新聞」の記事によると、西日本のある宿を利用した女性客が、インターネット上で指摘したことから、問題が明らかになった。宿側は、海と湯船の水面が一体となり、浮かんでいるような感覚を味わえることを売りにしていた。
女性客が利用したのは、3階の部屋。ベランダに出たところ、全裸の人の姿を目撃し、驚愕したという。宿は、その部屋から露天風呂が見えることを数年前から認識していたにもかかわらず、「不安をあおらないため」という判断で、利用客に事前に知らせてこなかった。また、水面から露出するのは上半身の一部だけと判断し、部屋の利用を女性に限定して、営業を続けていたという。女性客の指摘を受けて謝罪した宿は現在、部屋とベランダをつなぐ扉をロックしたうえで、「女性限定客室より見える場合がある」と記した案内を掲示しているという。
宿に対し、ネット上では「不誠実」という批判や、女性限定にしても解決にならないことへの疑問などが寄せられている。一方、外から見える露天風呂は「けっこうある」という声や、絶景と覗かれるリスクの「バランスが難しい」という意見もあふれている。
不備を知りながら改善しなかったことは宿の過失だが、露天風呂で人に覗かれるリスクはゼロではない。それを知ったうえで利用する客に、責任は生じるのか。軽犯罪や迷惑行為に詳しい、西浦善彦弁護士が解説する。
「露天風呂が、独特の開放感を提供することを目的に、一般的に人が立ち入らないと考えられる場所に向けて設置されているのであれば、旅館側に法的責任はないと思われます。たとえば山間にある露天風呂では、厳密に誰からも見られないようにすることは、物理上、難しいでしょう。もちろん、盗撮犯には刑事罰が加えられるとしても、旅館側への責任追及は容易ではなく、利用者の自己責任となる可能性が高いと考えます。
ただし、問題になっている温泉宿が、部屋を女性だけに限定して営業していたことには問題があります。厚生労働省が定める『公衆浴場における衛生等管理要領』では、一般公衆浴場の浴室は、『男女を区別し、その境界には隔壁を設け、相互に、かつ、屋外から見通しのできない構造であること』と定められており、また『旅館業における衛生等管理要領』においても、『共同浴室を設ける場合は、原則として男女別に分け、各1か所以上のものを有すること』とされています。したがって、異性の客から見ることができる構造自体が、この要領に反する可能性があります」
では混浴の場合、人から見られることは仕方ないのだろうか。
「混浴は、江戸時代では当たり前だったと聞いたことがありますが、じつは現代では、原則として禁止されているのです。前述の厚生労働省の各要領では、『おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと』とされていて、要するに小学生以上の子どもや大人は、男女で混浴させないこととなっています。
また、同要領では、『公衆浴場の利用目的利用形態等により、これにより難い場合であって、公衆衛生上及び風紀上支障がないと認められるときは』混浴も認められていますが、これは温泉旅館の家族風呂などが該当すると考えられます。そのため、秘境の混浴風呂というのは、厳密には認められにくい状況にあるのだと思います。
なお、当然ですが、混浴とわかって、自ら進んで入湯したにもかかわらず、裸を見られたという理由だけで、施設側に法的責任を追及することはできません。ただし、混浴の施設に入ることは分かっていても、その風呂がまったく別の場所から覗かれる状態であったり、見せもののようになっていたりすることまでは、通常、承知していないでしょうから、そうした予想外の第三者の目に触れる設備であったのであれば、法的問題が発生する可能性があります」
利用客が心おきなく露天風呂を楽しむためにはどうすればいいのか。
「露天風呂からの絶景は旅の醍醐味でありますが、今回の問題のように、あからさまに異性から姿を見られてしまった場合、せっかくの楽しい思い出も台なしですし、法的問題に発展しかねません。旅館側としては、『屋外から』通常の方法では『見通しのできない構造』であるかを確認しておかなければなりません。また、利用される方においても、旅館や公衆浴場がどのような施設なのかをあらかじめ把握し、『絶景のために覗きのリスクを承知で』ではなく、安心して景色と泉質を堪能できる施設を選んでほしいです。
先日、私は函館の湯の川温泉を利用しましたが、早朝のホテルの最上階の露天風呂からは、遠くに函館山が見えて『これは絶景すぎる! 気持ちいい』と癒されました。
しかし、函館山方向の、すぐ手前のホテルの最上階にもお風呂がありました。こちらから50mくらいの距離だったため、お互いに目を凝らせば、姿が見えるような状態でした。ですが、そこは工夫されていて、こちらもあちらも男湯だけが見える構造になっていて、さすがだなと思いました。みなさんにもぜひ、一度、堪能いただきたいです」
温泉くらい、つまらぬ心配を気にせず入りたいもの。
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