木村拓哉は円熟した渋さのあるいい演技をしているし、物語はケレン味のないシリアスな世界観を構築した良質な作風になっていると思う。
だからこそ、問題が根深いのだ。
先週月曜に第6話が放送された木村主演『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)の視聴率が、だいぶヤバいことになっている。
世帯平均視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)で推移を見ると、第1話は12.1%と好スタートを切っており、続く第2話も10.7%と二桁台をキープ。しかし第3話で9.8%と一桁台に陥落すると、第4話9.6%、第5話9.1%と二桁復帰できず。そして先週放送の第6話では、とうとう8.3%にまで下落してしまった。
■まずすぎる視聴率3つの理由
この視聴率の推移にはまずい点が3つもある。
まず、お気づきだろうが、第1話から第6話までずっと右肩下がりだという事実。下落の一途をたどっているのだ。
次に、昨年の木村主演作『未来への10カウント』(テレビ朝日系)で9%台の回があり、キムタクドラマ史上、初の一桁台となってしまったのだが、それでも9%台にとどまっていた。けれど『風間公親』では9%台に踏みとどまれず、8%台まで下がっている。
また、『未来への10カウント』は、一桁回はあったものの全話平均の視聴率は二桁でふんばっていた。だが『風間公親』は、第1話から第6話までの全話平均で9.9%と二桁割れとなっており、このままいくと最終的な全話平均でも一桁陥落が濃厚なのである。
近年は多くのドラマファンに見逃し配信が浸透してきており、リアルタイム視聴を計測している視聴率というデータはもはや絶対的な指標ではない。
実際、見逃し配信の人気の指標となるTVerのお気に入り登録者数では、『風間公親』は大台突破の121.4万人(5月18日現在)となっており、存在感を示している。だから、この作品を爆死などとこきおろすつもりはない。
とは言え『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(2000年/TBS系)や、『HERO』第1シリーズ(2001年/フジテレビ系)といった、全話平均で視聴率30%超えという伝説を残してきたキムタクの最新作がこの現状なのは、やはり隔世の感を禁じ得ない。
しかも今クールは、同世代で長年しのぎを削ってきた福山雅治の主演作『ラストマン―全盲の捜査官―』が絶好調。第1話から第4話まで14.7%、13.1%、12.0%、12.4%と世帯平均視聴率で素晴らしい結果を出しているため、どうしても比較されてしまうのだ。
■ガッキー投入回で一桁台に陥落
冒頭でお伝えしたとおり、木村はいい演技をしている。
『風間公親』は、警察学校の教官役で木村が初めて白髪キャラに挑戦し、人気を博したスペシャルドラマ『教場』シリーズの前日譚。2020年正月に放送された第1弾・前後編は15%台、2021年正月に放送された第2弾・前後編は13%台と高視聴率を獲得していた。
『教場』以前の木村は、どんなストーリーのどんな役柄でも同じような雰囲気の演技をしていたため、「なにをやってもキムタク」と揶揄されることもあったが、『教場』では “キムタク節” を封印。冷酷無比な主人公を演じ、高い評価を得たのだ。
『風間公親』でも好評だったスペシャルドラマ時代の演技を踏襲しており、いままでの木村主演の連ドラとはいい意味で一線を画していると感じる。だが、そんな木村の健闘に数字がついてきていない。
今回の連ドラは劇中の時系列でいうとスペシャルドラマ2作よりも過去。主人公・風間が警察学校の教官になる前の、刑事指導官として新人刑事の教育にあたっていた時代のストーリー。そのバディ役となる新人刑事役には赤楚衛二、新垣結衣、北村匠海、白石麻衣、染谷将太といった旬の俳優や実力派俳優が名を連ねている。
第6話まで見ると、2話ごとにバディ役が変わっていく法則になっている。第1・2話が赤楚、第3・4話が新垣、第5・6話が北村となっており、今夜放送の第7話からは白石が登場予定。
実は、このバディ役と各エピソードをリンクさせて考えると、さらにまずい状況が浮き彫りになる。
初の一桁視聴率を記録したのが第3話だが、これは説明不要の人気女優・新垣がメインとなる回の前編。フジテレビとしてはガッキー効果で視聴率爆上がりを期待していたかもしれないが、フタを開ければ上昇どころか下降して一桁台に陥落してしまったのである。
■シリーズ最重要回で最低視聴率
キムタクドラマ史上最低の8%台を記録した先週の第6話は、北村メインの回の後編だったわけだが、『教場』シリーズのファンであれば、ここが最重要回であることはご存知のとおり。
スペシャルドラマ『教場』で、風間は右目が義眼になっているのだが、2021年放送の第2弾・後編のラスト5分で右目を失う一連の過去シーンが唐突にインサートされ、物議を醸していたからだ。
そのラスト5分で描かれたのは、フードをかぶって千枚通しを持った怪しい人物に、北村演じる刑事が首を何度も刺され、応戦した風間も右目を突き刺されるという惨劇。だがスペシャルドラマでは、恐ろしい凶行だけが放送され、その前後が描かれていなかった。
そして、この衝撃シーンが再び描かれたのが、先週の『風間公親』第6話。スペシャルドラマでは風間とバディ刑事の関係性や、その惨劇に至るまでの経緯などが一切不明だったため、ファンが2年以上も待たされた謎が解き明かされる回だったのだ。
スペシャルドラマ時代から引っ張っておいた主人公の義眼の秘密をついに明かした最重要回で、キムタク史上最低視聴率を記録してしまったのは、フジテレビとしては想定外中の想定外だったに違いない。
■王道でも王道以外でも不発…
木村自身は視聴率など気にしておらず、上質な作品を作ることだけに全力集中しているに違いない。しかし、木村の周辺やテレビ局は、戦々恐々としているのではないか。
昨年は王道の “キムタク節” を炸裂させた『未来への10カウント』で、初の一桁視聴率回を記録した。だが王道とマンネリは表裏一体のため、“キムタク節” を封印した作品にすれば、大復活できるのではないかという算段があっただろう。
しかも『教場』シリーズはスペシャルドラマで高視聴率を出していたので、脱 “キムタク節” の連ドラでヒットを狙うなら、これ以上適した作品はないと思えるほどだ。
そんな期待があったのに、このありさま。昨年は王道演技で不発、今年は王道から外して不発となると、連ドラ次回作はどのような手を打てばいいのか……。
――今夜放送の第7話は、右目を失った直後の風間が描かれる貴重なエピソード。視聴率右肩下がりに歯止めをかけ、上昇させることができるか、注目である。
堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『日刊SPA!』にて恋愛コラムを連載中。ほかに『現代ビジネス』『文春オンライン』『集英社オンライン』『女子SPA!』などにコラムを寄稿
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