「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
前回に続き、今回も犬の「噛む」がテーマ。飼い主さんを本気で噛むようになるのは、何が原因なのでしょうか? そこには、犬の序列に関する間違った考え方と、やりがちな行動の共通点があるようです(編集部)。
新型コロナが広がり出して増えたもの、な〜んだ。
家にいる時間? 確かに。
酒量? ほどほどに。
まぁいろいろ挙げられることでしょうが、テレビにおける動物の映像もそのひとつ。
多くはYouTubeとかの映像を借りてきて流していると思われるわけで、テレビ局としてはお手軽に番組が構成できて、そこそこ視聴率も稼げるのでしょう。
かわいい、おもしろい、笑える、癒されるといった、犬たちの映像も毎日何回もと言っていいほど、目にする。
ただ、犬の行動に関するプロとしては、困ってしまう場面もよく目にする。
それは、出演者たちの古い知識に基づく、コメント。
「家族の中で自分が何番目かを理解しますからね」
古い知識に基づくコメントとはこのこと。
家族の中で序列をつくる。これ90年代までは真実とされていた定説。
その考えの延長に、飼い主を噛みつくのは飼い主のことを下に見ているから、
といったものがありました。
飼い主が序列の上にいれば、すなわち犬が飼い主を群のリーダーと認めさせれば、噛みつかれることはない。かつては私もそう考えていました。
ただ1999年、プロとして家庭犬しつけインストラクターの仕事を始めるとすぐに、その考えに違和感を覚えました。
プロになると相手にする犬と飼い主の数が、それ以前と異なり桁違いに増えます。
飼い主に噛みつくといった相談も数多く受けることにもなるわけです。
そこで、それまでの定説が間違いだと気づくのです。
かつては、飼い主を攻撃的に噛むのは自らの強さをアピールする行為で、優位性攻撃とか支配性攻撃とか、序列の上のものが下のものに見せる攻撃と分類してもいたのです。
しかし、飼い主を本気で噛む犬は、決して強いタイプではない、いわゆる怖がり。決して飼い主のことを下に見たりなどしているわけではないのです(そもそも飼い主のことを上に見たり下に見たりはしないのですが……)。
本気で噛みつくようになる3つのきっかけ
飼い主に噛みつくといった問題の相談を多く受けて、他にも見えてきたことがあります。
それは、本気で噛みつくようになったきっかけ、その代表的なものが3つあるということ。
その3つとは、「くわえているものを取ろうとしたとき」「ブラッシングや足拭きなど嫌がるケアを無理やり行ったとき」「叱りつけたとき」。
それまでは本気で噛まなかったのに、この3つのどれかをきっかけに、ことあるごとに本気で噛みついてくるようになる。
犬は牙という武器を持っています。ただ、多くの犬はその‘武器の使い方を人間との生活の中で、一生知ることなく終えるわけです。
それが先の3つのどれかをきっかけに、その武器の使い方を教えてしまうのです。
噛まれないために
「くわえているものを取ろうとしたとき」「ブラッシングや足拭きなど嫌がるケアを無理やり行ったとき」「叱りつけたとき」
この3つはいわば、「犬が嫌がることを無理やり行ったとき」ということです。
そこには、飼い主のことを上に見させれば嫌がることを無理に行っても受け入れる、という間違った考えが根っこにあるわけで、その考えを改めない限り飼い主を本気で噛んでくる犬は決して減らない。
嫌がることは無理やり行わないことです。
合図でくわえているものを離すようにトレーニングしましょう。ブラッシングや足拭きなどケアは嫌がらないように慣らしましょう。叱らないで困った行動は改善に向かわせましょう。
そしてです。もしもこの記事を、番組出演者の皆様がお読みならば、是非とも犬の行動に対する知識を刷新してください。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。