「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は「飛びつき」を例に、叱らずに直す方法を解説します。大型犬だけでなく、最近では小型犬の飛びつきによる噛みつきや、服を汚すなどのトラブルが急増しているため、小型犬の飼い主さんも必見! また、一般的な方法では効かない犬の場合の、別の方法もアドバイスします(編集部)。
叱らないで育てるにはどうするか。
前々回、前回の続きです。
①犬は体験を学習していく
②犬は4つのパターンに基づく学習をしていく
③犬は前触れを理解する(何かの後に何が起きるか、何かの後に何をすれば何が起きるか、を理解できる)
前回は、②-ⓓで習慣化した行動を、体験をさせず、好ましい行動を教え、前触れに対する反応を変える、という具体例を上げていきました。
では、②-ⓐで習慣化した行動はどうするか。
取り上げる例は、飛びつきです。
飛びつきのほとんどは結果的にいいことが起きているから
飛びつきを習慣化しているのは、結果的にいいことが起きている(②ーⓐ)か、嫌なことがなくなっている(②ーⓓ)かです。
嫌なことをなくしているというのは、攻撃的な行為で相手を追い払おうとしているということです。
ただ、一般的に家庭で飼われている犬で、攻撃的な飛びつきを見せる犬は多くはありません。
ほとんどが結果的にいいことが起きているからです。
ではそのいいこととは何か?
それは飛びついた人にかまってもらえるということです。
犬好きの人が「かわいい」などと口にして近づく、そうした人に飛びつくとなでてくれたりする。
飛びついた結果毎回いいことが起きる。ゆえに習慣化へと向かう、というわけです。
体験をさせない、いいことを起こさない
飛びつきは相手を押し倒してしまうなど、特に大型犬では危険です。
小型犬はどうかというと、外における他人への飛びつきはやはりNGとなります。
小型犬といえども他人への飛びつきは、人間の子どもでいえば地面をいじり回した汚れた手で相手の服を触るのと同じです。好ましい行為ではありません。
外ではリードをつけているわけですから、飛びつける範囲に相手が近づかないよう距離を保つことが重要です。
相手と触れ合わせたいのなら、小型犬は抱いてしまう。大型犬はリードを踏むなどして、飛びつく体験をまずはさせないことです。
一方で、頼める相手には犬に近づいてもらい、飛びついたら背を向けて離れてもらう。この対応を徹底してもらいます(家族に飛びつくのなら家族同士でも同様)。
飛びついたらかまってもらえない、すなわちいいことは起きない。いいことが起きない行動は取らなくなる(②ーⓒ)わけですから、やがて犬は飛びつかなくなります。
好ましい行動でいいことを起こす
飛びついたら無視してかまわない、すると飛びつく行動は取らなくなるわけですが、ここでおしまいというわけではありません。
例えば飛びついてもいいことが起きないなら、吠える、噛みつく、と別の困った行動を習慣化するかもしれません。重要なのは、好ましい行動を取ったら、かまってもらえるということをしっかりと伝えることです。
幸い飛びつきを無視していると、ほとんどの犬がオスワリをします。なぜなら、多くの犬はオスワリを教えられていて、その行動が人間からいいことを引き出せることも知っているからです。
ただ、人が近づいたときはまずは飛びつけばいいと、今までの経験から学んで習慣化しまっている。
飛びついたら無視、オスワリをしたらかまってあげる。
いいことが起きる行動を習慣化していくわけですから、犬はやがて他人が近づくとオスワリをすることを習慣化していきます。
ところでこの飛びつき、昔は飛びついてきたら前足をつかんで離すな、さらにはその状態で胸を蹴飛ばせ、後ろ足を踏め、などと方法(②ーⓑの活用)を指導していた訓練士が少なくありませんでした(今でもいるかも)。
そんなことをする必要はまったくありません。
ちなみに、前足つかんで離さないとそのつかんだ手をガシガシ噛んでくる犬もいます。胸を蹴る、足を踏むなどをしたら、そもそも他人への警戒心を高めることになってしまいます。番犬の時代なら問題はないのですが、多くの人からかわいがられたいと考えるのなら、決して取り入れていけない方法となります。
叱ることは百害あって(=リスクが高く)一利なし。
叱らなくても行動は改善できます。
ならば、リスクのない叱らない方法を選びましょう。
まぁ、そういうことなのです。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。