「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
「犬を叱るしつけはNG」と、このコラムでもたびたびお伝えしていますが、「イケナイことをしているのに叱らなかったら、代わりにどうすればいいの?」「叱らないとやめさせられないから、させ放題になってしまうのでは?」と疑問の声が寄せられることがあります。今回は、西川先生がその疑問に答えます(編集部)。
叱ることは100害あって一理なし、的なお話に対して、「叱る代わりに何をしたらいいか書いていない」といった感想が、「いぬのきもちWEB MAGAZINE」以外のサイトで配信記事としてご覧の方から、時としてあるようでして。
実のところ何をすればいいかの記事は、具体的な問題を取り上げて「いぬのきもちWEB MAGAZINE内」の過去のコラムで、いくつもお話ししています。
他サイトを通じて配信記事をご覧になる方は単発で記事をご覧になっているので、まぁ致し方ないと思うところです。
ただ、編集から「何をすればいいかの記事を今一度」という意見もございまして、今回は「叱らない代わりにどうすればいいか」を改めてお話していきましょう。
一点あらかじめ申し上げておきますが、叱りたくなる行動を叱らない方法で改善するアプローチはその具体的な事象によって異なる、ということをご理解いただきたい。
その具体的な事象を次々に取り上げていくとなれば、1冊の本になってしまいますので(実際一冊の本にしています)、今回は土台となる基本の考え方を述べていくことにいたしましょう。
もっとも1回で説明しきれる感じはしませんが。
3つの原理・原則をまず理解する
叱らない代わりにどうするか、を理解するには、動物がどう行動を習慣化していくか、加えて脳の働きをまず知る必要があります。
当連載をご覧の方にはすでにお伝えしていますが、初めての方もおられるかと思いますので、それを記します。
3つの原理・原則とは、以下のごとく、です。
①犬は体験を学習していく
②犬は4つのパターンに基づいて学習をしていく
③犬は前触れを理解する(何かの後に何が起きるか、何かの後に何をすれば何が起きるか、を理解できる)
叱ることは②-ⓑですが、条件が揃わないとそれが成立しないこと、さらに条件が成立したとしても弊害が生じるリスクがあることがわかっている。よって叱ることで②-ⓑを使うことはしない、ということです。
もっともあま噛み対策に不可欠な「苦味スプレー」は②-ⓑを期待しています。
すなわち②-ⓑそのものはまったく使わないわけではないのですが、叱るという意味では使わない、ということです。
行動の習慣化は、脳にその回路が出来上がっていくということ
①の体験を学習していく、というのは、体験を通じて脳に回路ができていくということです。
体験をすればするほど、その回路が強くなり早く反応していくようになる。
逆に体験できなければ習慣化のしようがない。習慣化した行動も体験できなければ、その回路は脆弱になり、反応が弱くなっていく。
人間は体験せずとも言葉を通じて学習できますが、同じ行動を繰り返し行うことでその行動が得意になり、その行動を繰り返し行わなければその行動が下手になっていくのは、他の動物と同じです。
勉強だって、スポーツだって、仕事のスキルだってそう。
さて、「叱らない代わりにどうすればいいか」を理解するため重要なのはまずこれ、「困った行動は体験させない」です。
すなわち、パピーであればこれから習慣化させたくないことは体験させないこと、すでに成犬となり習慣化している行動もしかり、体験させないことをまず考える。
体験できなければ習慣化しようがない、習慣化した行動も体験しなければ忘れていく、そういうことです。
習慣化は②-ⓐによるものなのか、②-ⓓによるものなのかを見極める
体験をさせないことで、習慣化を防ぐ、それ以上の習慣化が進まないようにするだけでは、問題の解決、予防には至りません。
同時にやることがあります。
習慣化している行動、これから習慣化していく行動が、②-ⓐによるものなのか、②-ⓓによるものなのか、そのいずれかを見極めることです。
そして、いいことが起きているから習慣化している(習慣化する)行動に対しては、その行動に対していいことを起こさないこと、加えて別の好ましい行動でいいことが起きることを伝えること、あるいはその行動を防げる好ましい行動を教えること。
嫌なことがなくなるから習慣化している(習慣化する)行動に対しては、その嫌なことに慣らすこと、その行動を防げる(その行動が起きない)好ましい行動を教えること、です。
具体的には……
って、それは大人の事情(文字数の関係)で次回に持ち越さざるを得ませんね。
ということで、やっぱり1回では終わらなかったでしょ(って、2回でも終わるのかも疑問)。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。