ベイスターズを支えた名スカウトがこの冬、惜しまれながらチームを去った。2008年から在籍し、山崎や今永らドラフト1位指名5人を含む22選手の獲得に尽力してきた武居邦生さん(65)。「可能性がある原石を見つけるのはすごく楽しかったし、こんな魅力たっぷりな仕事はない」。時には厳しくも、温かな目で見守ってきた。
ドラ1活躍の陰に親心
「選手とスカウト以上の関係を築いてきたつもり。どこに行っても声を掛けてくれて、愛情をもって接していただいた。お父さんのような存在」
14年のドラフト会議で1位指名された山崎の口からは感謝の言葉が尽きない。脳裏に浮かんだのは入団前、二人三脚での練習風景だった。
1月の新人合同自主トレーニングに備え、教育実習先の東京・岩倉高にまで足を運んでくれたという。ランニングにも付き合ったという武居さんは「いきなり調整遅れだったら、レッテルを貼られる。『俺も行くから練習しような』って。『お前、ちゃんとやれ』とか言いながらだったけど」と笑って振り返る。新人王を獲得した右腕の活躍の陰には、そんな親心があった。
18年1位指名の上茶谷には登板後に必ずLINEで感想を送るなど、獲得選手ともできる限り向き合ってきた。「やっぱり気になるし、かわいいからね」
プロ未経験、異色の経歴
プロ経験者が大半を占めるスカウトの世界で、武居さんは異色の経歴の持ち主だ。福岡・九州工高(現真颯館高)から国士舘大、日本楽器(現ヤマハ)を経て、引退後は国士舘大で14年間監督を務めるなど、アマチュア球界を渡り歩いてきた。
転機はベイスターズのスカウトが大量解雇された07年オフ。2年間の浪人生活を送っていた武居さんに縁があって声が掛かった。アマスカウト部長補佐としての転身だった。「プロは興行として球場職員を含めて人が深く多く関わっている。ものすごく情熱を感じた。アマとは別世界」
最初のキャンプでは現役時代の三浦監督が初日のブルペンで328球を投げた姿に感銘を受け、「これがお金を取る投手」との指針となった。
対話重視で新人探し
高校、大学、社会人、BCリーグと全国各地の球場や学校に足を運び、選手をチェックし、関係者との対話を重視する。大切にしてきた思いは一貫してきた。
「まずは原石を見つけること。取れるかどうかは分からないけど、可能性がある選手を探すのは楽しい。チーム状況を鑑みて、ダイヤモンドになる可能性はあるか。あとは顔つきも大事にしたかな」
ドラフト上位選手は1年目から活躍するのが大前提だ。幅広い人脈から故障歴などをチェックするのも仕事の一つ。15年は故障明けの今永の獲得を進言し、チームのエースに成長したことは誇れる仕事と言える。
来年1月からは新たに始まる独立リーグ「日本海オセアンリーグ」の運営事務局スカウト統括部長となる。ルートインBCリーグに属していた4球団が脱退し設立した新リーグを成功させるため、武居さんは「挫折した子どもたちの受け皿として、もう一度夢を与えられたら。ここまで野球で生きてきた恩返しをしたい」。全国で原石を探す旅は、まだ続く。
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