データやテクノロジーが野球にもたらした変革に迫る「教えて IT野球」。第3回はデータの解析を担うアナリストに迫る。現役時代はタフネス左腕として活躍し、現在は横浜DeNAのデータ戦略部でゲームアナリストグループリーダーを務める大原慎司氏(38)に聞いた。
まずプロ野球チームにおけるゲームアナリストの役割とは何か。大原氏によると、膨大なデータを投球や攻撃、調整方法に至るまで多岐にわたる面で有効活用できるよう首脳陣や選手に提案し、チームの勝利につなげることだという。
戦術や戦略に直結し勝敗に大きく関わるため、責任は非常に重い。だからこそ大原氏は、アナリストの言葉には確かな理由が大切だと話す。「首脳陣や選手に『なぜ』と聞かれて答えられないことは絶対に提案しない。しっかりとした根拠があれば勇気を持って進言できる」
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ベイスターズは今季、球団史上初の交流戦優勝を果たした。ロッテの佐々木朗やオリックスの山下、宮城といった球界でも屈指の好投手から白星を重ねたことも大きな要因といえる。佐々木朗から4点を挙げて勝利した6月18日のロッテ戦(横浜)後、石井チーフ打撃コーチは「アナリストに言われた通りだよ」との言葉を残していた。
攻略のポイントは何だったのか。大原氏は「シーズン中なので具体的にこの試合、この投手ということは言えませんが」と前置きしつつ、アナリスト視点での好投手対策を明かした。
「いいピッチャーは一般的に被打率が低くて四球も少ない。つまりヒットを打つのが難しい上に走者もなかなか出ない。だけどチームが勝つには点を取らないといけない。だから『どう得点するか』という所を起点に分解していくイメージ」
肝要なのは打ち崩すことではなく、点を取ること。その視点からファウルで粘るのか、あるいはボール球を振らないよう徹底するのかといったいくつかの具体策から最適解を選択していく。また現在の先発投手は100~120球が降板のめどのため、「先発投手というより、1試合トータルのプランニングが大切」という。
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チームは今季セ・リーグ2位と好調。大原氏に、アナリストの視点から今季のベイスターズの特徴を挙げてもらった。
打撃面では三振数が12球団で群を抜いて少ないことが大きなポイントだという。ボールが前に飛ぶということは、打ち取られた打球でもヒットゾーンに転がったり守備の失策を誘ったり、何かが起こる確率が上がるため「相手にとっては嫌に感じる要素」という。
投手陣の特徴としては「K/BB」の高さを挙げた。「K/BB」とは与四球一つあたりの奪三振数を表す投手の能力を測る指標。これはセ・リーグ2位を記録しており、「走者を出すリスクの低い投球がチームとしてできているということ」と大原氏は言う。
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かつてとは比べものにならないほど、野球におけるさまざまな要素はデータとして可視化されるようになった。時にはあらゆる数値を参照しながらアナリストになったつもりで観戦してみると、野球の楽しみ方が広がるかもしれない。
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