データやテクノロジーが野球にもたらした変革に迫る「教えて IT野球」。今回は筑波大大学院でスポーツ選手らの動作解析などについて研究し、プロ未経験ながら横浜DeNAで今季、投手育成コーディネーター兼育成投手コーチを務める八木快氏(33)に聞いた。
「動作解析」。現在では野球界で当たり前に使われるようになった用語だが、端的に言えば投球フォームを数値化することだ。腕関節の角度、地面を踏み込んだ瞬間にはね返ってくる力など、人の目に見えない投球動作を構成する各データを計測し、球速や制球力の向上に役立てる。投球だけでなく打撃フォームの改善にも活用されている。
投手の育成に携わっている八木コーチは高校、大学時代に外野手としてプレーし、投手の経験はないに等しいという。プロ選手を指導することに抵抗はなかったのか。
「確かに僕にはひりつくようなマウンドの経験はありません。ただ、投手育成に必要なものは必ずしもそうした要素だけではないと考えています」
八木氏が担っているのは、投球動作を分析し、見つかった課題を克服するための有効な方法を探るといったデータ活用の要素が大きい。「投手の経験やプロの経験がなくても教えられる領域」と説明する。
また、動作解析の知見は、野手に比べて投手の方が成果につながりやすい傾向にあるため、まずは投手の育成に注力しているという。
チームとしてオフシーズンに最先端機器を使ってブルペンで投げ込む姿は日常になっている。5年目の大貫は動作解析を取り入れて飛躍した投手の一人だ。
2021年シーズンは最下位。投手陣は振るわず、大貫自身も6勝止まり。球速に課題を感じ、オフには自身のフォームと向き合った。「三振にこだわる」ことをテーマに掲げた昨季は自身最多の11勝をマーク。真っすぐに力強さが増し、奪三振数もキャリアハイだった。
コーディネーターの役割は
「コーディネーター」という肩書も聞き慣れない。八木氏の考えでは、より長期的かつ俯瞰(ふかん)的な視野で育成のプロセスを考えていく役割だという。
それぞれの投手の強みや課題を把握し、成長過程に合わせて実戦での経験を積ませるべきか、トレーニングに重点を置くかといった判断を下していく。「そもそもその練習がなぜ必要なのかということを考えるのがコーディネーター」と八木氏は説明する。
動作解析といったスポーツ科学の知識を見込まれてプロ野球チームで指導を担う立場になった。こうした事例もテクノロジーがプロスポーツにもたらした変化の一つといえる。
八木氏は、プロ経験のない指導者が持つ可能性に大きな期待を寄せる。「選手のパフォーマンスを伸ばすという点では携わる余地はあると思っている。当たり前だと思われていた野球の考え方を違う視点で捉えていくためにはそういう人材も必要だと思う」
外部リンク