阿部勇樹の引退、槙野智章と宇賀神友弥の契約満了が発表された直後に行われた11月20日のJ1リーグ第36節・横浜F・マリノス戦。
思い描いたように主導権を握れたわけではなかったが、2-1と勝利できた要因のひとつが、インサイドハーフとして起用された関根貴大の奮闘だった。
21分にはカウンターから鋭いスルーパスを繰り出し、48分には伊藤敦樹へのワンタッチパスで2点目をお膳立て。ボール非保持の際もプレスやプレスバックを敢行して何度もボールを奪い取った。
そんな関根のプレーに頼もしさを感じていた人物がいる。
ベンチに控えていた宇賀神である。
《阿部ちゃんの引退、槙野、そして自分の退団ということで来年どうなるんだろう。誰が苦しい時にチームを盛り上げ引っ張っていくのだろうと心配していましたが今日の関根のプレーを見て「おれに任せてください」と言ってるように感じた。》
試合当日の夜、自身のブログを更新した宇賀神は、そこにこう綴った。
もしかすると、リカルド ロドリゲス監督も、宇賀神と同じ気持ちだったのかもしれない。
選手の交代枠が5人になった昨シーズンから、攻撃陣を積極的に交代させていくのは、ひとつの定石になっている。
リカルド ロドリゲス監督も積極的に前線を入れ替え、攻撃のギアをアップさせてきた。そのため、関根はここ11試合連続してスタメン起用されたものの、すべて途中でベンチに退いている。
しかしこの日、指揮官は関根を最後までピッチに立たせたのだ。それだけ関根のプレーが気迫にあふれていたと感じられたからではないか。
試合後、3人の先輩たちが今シーズン限りで浦和レッズのユニホームを脱ぐことについて訊ねられた関根は、こんなふうに語った。
「今まで浦和のために闘ってくれた選手たちが去るというのは寂しいし、不安な部分も大きい。僕自身、それをしっかり引き継いでいかないといけないという覚悟もある。今のクラブにその気持ちを持っている選手がどれだけいるのか、不安もすごくある」
この言葉は偽らざる本音だろう。しかし、近い将来そうした日が来ることを、自身が引き継ぐべきことを、関根は以前から覚悟していた。
あれは、森脇良太がレッズを離れることが発表された直後だったから、19年秋のことだ。その夏、海外から復帰したばかりの関根は危機感をあらわにした。
自身に対しても、クラブに対しても――。
「毎年のように監督が代わって、クラブがどうあるべきかが問われていると思う。正直、一回外に出たことで、客観的に見られるようになった。なんで、こんなことになっているんだって。本当にこの1、2年が大事だと思う。
我慢強く、辛抱強く戦って浦和レッズのサッカーというものを作り上げないと、先の未来が真っ暗になってしまう。世代交代も必要だと思うし、僕らの世代が引き継げるかどうか。自分も年齢的に引っ張っていく立場なので」
プライベートで食事をした際、宇賀神から「レッズの一時代を築いたメンバーとプレーしているのはお前しかいない。お前がやらなきゃいけないぞ」と告げられた関根は「僕ひとりじゃ厳しいです」と吐露したという。
しかし、横浜FM戦でのプレーから、その覚悟は間違いなく伝わってきた。伊藤をはじめとする後輩たちも、関根の覚悟とおもいをきっと感じ取ったに違いない。
クラブの歴史や伝統とは、そうやって受け継がれていくものだ。
(取材/文・飯尾篤史)
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