今季の関根貴大のプレーを見て、気になっていたことがある。
対戦相手を困らせるようなポジションが取れていて、同サイドの西大伍とのコンビネーションも悪くない。そして何より、ゴール前に飛び込み、決定機に絡む機会も多い。
ところが、どうも表情が晴れやかでないように見えるのだ。
モヤモヤを抱えているような、考え込んでいるような……。
「やっぱりそう見えますか。『元気がないね』とか言われたりするんですけど(苦笑)、そんなことはなくて。新しい自分を作り上げたいと思っています。ただ、そこでいろいろと難しさを感じているのも確かですね」
関根のストロングポイントとして多くの人が思い浮かべるのは、ドリブル突破だろう。若い頃は1対1の場面で臆せず勝負を挑み、サイドを攻略する突貫小僧のイメージがあった。
だが、今季の関根が意識しているのは、よりオールラウンドなプレーだという。
「自分はドリブルっていうイメージが強すぎると思うんですよ。もちろん、そこを出したい気持ちもあるんですけど、リカルド(ロドリゲス)監督のサッカーでは正確にパスをつなぐこと、基本技術のクオリティが求められる。それって、自分でも幅を広げるチャンスだなと思っていて」
今季の浦和レッズが取り組んでいるのは、ポジショニングで優位性を保ち、コンビネーションによって相手にダメージを与えるアタッキングサッカーである。
こうしたスタイルは関根にとっても新鮮だ。26歳となり、サッカー選手として成熟しつつあるタイミングで、いい監督と出会えたことに感謝もしている。
「自分がもっと若かったら、このサッカーに付いていけないと思う。いろんな経験を積んで、いろんなポジションができるようになった今だから、このサッカーを楽しめているし、成長できるな、って感じられています」
実際、武藤雄樹を頂点に置いた4-1-4-1システムが採用されたゲームでは、右インサイドハーフの武田英寿、右サイドバックの西と巧みにポジションを入れ替えながら、スムーズな連係を見せていた。
それなのに、なぜ、悩んでいるのか――。
「システムを試合中に目まぐるしく変えるので、難しいです。もう、世界が変わるというか。この前のベガルタ仙台戦でも途中から4-4-2に変わって、どこに立てば自分の良さを出せて、なおかつ周りも生かせるのか、瞬時に判断するのが難しかった。
それに、自分の良さであるドリブルも明らかに出せていない。この前、リカルド監督から『スタメンより途中から出たほうがイキイキしているように見える』と言われたんですよ。思い当たるのは、スタメンで出たときって、バランスやポジショニングをめちゃめちゃ考えるんです。
自分たちがボールを握るのが前提としてあるので、チームのリズムを良くしたいと思って。でも、途中出場のときは、バランスを崩してでも点を狙いに行かないといけないから、迷いがないというか、プレーに勢いが出たりするのかなって」
迷いは、こんなところからもうかがえる。
起死回生の同点ゴールを決めた5月5日のYBCルヴァンカップ・柏レイソル戦のあと、オンライン会見に登場した関根は自身の思考について語った。
「自分の良さがだんだん消えてきていると感じているので、そのバランスを今すごく考えているところです。そこ(ドリブル)を出せなかったら、僕が出ている意味がないので、もっと個性を生かせるようなシーンを作っていきたいと思います」
ところが、それから10日が経った今、心境は若干異なっている。
「あのとき、そう感じていたのは確かなんですけど、今はやっぱり自分を変えたいという思いのほうが強くて。ドリブルを出せないからといって、自分がいる意味がないと思われないようにしないといけないし、違う良さを見せたい自分がいる。だから、思考に波があるというか」
そう語った関根は「もうね、ブレブレですよね、気持ちが」と苦笑した。
「でも、そうやっていろいろ考えて、結局たどり着くのは、どんなプレーをしていても、ゴールを取れば評価されるっていうことなんです。リカルド監督も、前の試合で点を取った選手を使おうとするので、やっぱり結果が大事だなって。プレーの幅を広げるためにも、これから先生き残っていくためにも、今季は結果を残していきたいんです」
実際、関根は今季の目標として二桁ゴールを掲げている。
ドイツ、ベルギーでプレーした17年夏からの2年間はシビアなサバイバルの中に身を置いた。19年のAFCチャンピオンズリーグ決勝では屈辱を味わった。
そうした経験から、チームを勝たせられる選手が何よりも価値のあること、評価されることを実感したからだ。
「リカルド監督と面談したときに、監督のほうから『二桁は取ってほしい』と言ってくれて。自分もそう思っていたところだったので、『絶対に取りたいです』って。(リカルド ロドリゲス監督が率いていた)徳島ヴォルティスのサッカーを見る限り、自分に得点のチャンスが増えそうだし、キャンプに入ってからもそう感じたので、成し遂げたいなって」
ゴールへの道筋は見えていて、その感覚も掴んでいる。最たる例は、4月3日に行われた鹿島アントラーズ戦だ。
右サイドの長い距離を駆け上がり、山中亮輔の左サイドからのクロスにダイビングヘッドで合わせ、ネットを揺らした。興梠慎三や武藤が見せる、まさしくストライカーのような飛び込み方――。
ゴールまでの過程で武藤のハンドリングのファウルを取られ、VARによってゴールは取り消されてしまったが、あの感覚は間違いなく自信になっている。
「これまではセンタリングを上げることを意識していたんですけど、今年は受けるほうを意識していて。左サイドで作ってもらい、自分が飛び込む形は最近、イメージしやすくなっています。ただ、今のままでは二桁に届かない」
目標を達成するためには、何かを変える必要がある。
「組み立ては大伍くんや(小泉)佳穂にある程度任せて、自分はゴール前に早く入ろうかなとも思うんですけど、エゴイストになるのも違うなって。考えすぎずにやりたいんですけど……サッカーって、本当に難しいです(苦笑)」
プロ2年目の武田や大卒ルーキーの伊藤敦樹、ユースから昇格した鈴木彩艶はもちろん、新加入ながら欠かせぬ存在となっている小泉、明本考浩も関根より年下。かつての末っ子キャラも、気がつけばチーム内で中堅となった。
昨年は西川周作が、今年は阿部勇樹がキャプテンを務め、試合中には槙野智章、宇賀神友弥が腕章を巻くことがあるが、レッズユース出身の生え抜きという意味でも、キャプテンやリーダーとしてチームを引っ張っていかなければならない時期だろう。
「もちろん、そういう年齢になってきたことは分かっています。だからこそ、プレーのクオリティを全体的に上げて、目に見える結果を出さないと、なれないものだと思います。キャプテンを任されるようになるために、チームに絶対に必要な選手になるために、結果が必要なんです、僕には」
欧州挑戦をいったん封印し、苦しむレッズを救うために帰国した。
しかし、AFCチャンピオンズリーグ決勝のアルヒラル戦で力の差を突きつけられ、大きなショックを受けた。昨季はシーズンを通して、チームに漂う停滞感を拭えなかった。
レッズにタイトルをもたらすために、再び欧州へ羽ばたくために、そして、日本代表になるために――。
全方位に自身の力を伸ばし、進化を遂げようとするのは、プロサッカー選手として当然の願望だろう。
だからこそ、関根貴大は大いに悩む。迷い、もがき、考え尽くす。その先に新しい自分が待っていることを信じて――。
(取材/文・飯尾篤史)