試合開始直後はもちろん、試合終了直前のアディショナルタイムになっても、ピッチを全力疾走する姿がある。
守備では1度ではなく、2度、3度と粘り強く相手を追いかけ、攻撃では思い切りよく飛び出すと、スペースを駆け上がっていく。
左サイドハーフだろうが、右サイドハーフだろうが、はたまた左サイドバックだろうが変わることはない。常に懸命で、常にがむしゃら——その姿には気持ちよさすら覚える。
「チームのなかで自分が一番、汗をかかなければいけないと思っています」
明本考浩のプレーに心を奪われたファン・サポーターは多いのではないだろうか。そう言う自分も、心を鷲づかみにされた1人だ。
J1第14節のガンバ大阪戦もそうだった。
20分、右サイドで得たスローインの流れから、キャスパー ユンカーが大きくサイドチェンジを試みる。左サイドにある広大なスペースを駆け上がってきたのが左サイドバックの明本だった。
「(ボールが)来そうだなとは思っていたので、受けられる位置は取っていました。右で作って左へ展開するのは、チームとしての狙いでもある。だから、スペースがある中で、いかにボールを受けて、いかに仕掛けるかは常に意識しています」
ユンカーが出したパスに追いついた明本は、ドリブルで持ち運ぶと、チラリとゴール前を見て低いクロスを選択する。
武藤がニアに走りDFを引っ張ったことによってできたスペースに、右サイドハーフの田中達也が詰めると、ゴールを決めた。
「ボールを受ける前から膨大なスペースがあったので、中の状況も見えていた。最初は武藤(雄樹)くんに出そうと思っていたんですけど、さらに奥もしっかりと見えていたので、相手GKとディフェンスラインの間を通すようなボールを蹴りました。そこを狙えということは、監督からも常に言われているので、本当に狙いどおりのいいパスを出すことができたと思っています」
右で作って左で仕留める。左で作って右で仕留める。
リカルド ロドリゲス監督が就任し、新たなサッカーを構築する浦和レッズの代名詞とも言えるゴールだった。
「逆サイドから攻撃を仕掛けているときは、ゴール前に入っていくということは自分の中で決めていることでもあります。ゴール前の枚数が増えれば増えるほど、チャンスになりますし、たとえ短い距離であってもダッシュして入っていくことは意識しています。G大阪戦は自分がアシスしましたが、当然、逆の形であれば自分も毎試合、狙っています」
栃木SCから浦和レッズに加入して1年目の今シーズン、明本は開幕戦からスタメンに抜擢されると、J1第14節のG大阪戦までリーグ戦全試合に出場している。
プレーオフステージ進出を決めたYBCルヴァンカップでも、第1節の湘南ベルマーレ戦を除いて、グループステージ6試合中5試合に出場。フル稼働といえる働きで、まさに主力の1人と言っていい。
だが、当の本人は、現状に微塵も満足していない。
「数字的にはリーグ戦14試合に出場しているように見えるかもしれませんが、自分のなかではまだまだだと思っていますし、物足りなさを感じれば、もっとこうしなければ、もっと成長しなければという思いはたくさんあります。
最初の数試合は、やはりJ1のスピード感に慣れず、常に“やばいな”という感覚もありました。それでも、ピッチに立っている以上は、責任を持ってやらなければいけないと続けてきたことで、徐々に自分の力が出せるようになってきた。
毎試合、積み重ねてきたことで、自分が与えられたポジションで何をしたらいいのか、どう動けばいいのかが分かるようになってきたんです。本当に徐々にですけど、浦和レッズに来て、状況を読む力、相手を見て戦う力を養えていることが、自分としては大きいと思っています。経験ある選手たちからも吸収できているのかなと」
そう明本が語るように、数字で見れば14試合であり、期間にすれば3カ月ではあるが、その間も日々、反省と成長を繰り返してきた。
明本にとって、一つの手応えとして残っているのが、浦和レッズ加入後、初ゴールを記録したJ1第7節の鹿島戦だ。37分、DFの裏に走り込むと、西大伍からのクロスを左足で決めた。
1-1で迎えた63分には、武藤からのパスに合わせてゴール前に侵入すると、PKを獲得。66分に槙野智章が決めた決勝弾に大きく貢献した。
「数字というものをすごく大事にしていたので、鹿島戦のゴールというのは自分にとって大きかったですね。あのゴールから変わったというか、徐々にではあるんですけど、やっぱり、あのゴールは大きかった。
これで浦和レッズの一員になれたというか、移籍してきて、まずはチームメイトに認められることが大事だったので、ゴールという結果を残したことで、自分のランニングや動き出しというのを見てもらえるようになりました。そういう意味でもあの鹿島戦は大きかったんです」
当時は4-2-3-1の「3」、2列目の左でピッチに立っていた明本だが、リーグ戦ではここ2試合、左サイドバックとして出場している。
試合によって異なればポジションを務め、試合中にも異なるポジションでプレーできることも明本の魅力の一つである。
「サイドバックはやはりDFだから、まずは守備の部分で一対一に負けないこと、上下の運動量を求められていると思うので、そこはしっかりと全うしようと考えています。サイドバックであれば、まずは失点しないこと、サイドハーフであればやはり点に絡むことが重要になる。
ただ、サイドバックで試合に出ているとはいえ、従来のサイドバックという意識は、それほどないんです。立ち位置としては、ウイングというか、サイドハーフに近い意識。相手との駆け引きを制して、どうやって相手の背後にランニングすることができるか。そうした状況を引き出すことができるかを考えながらプレーしています」
同サイドであっても1列違えば、プレーの選択やポジショニングも変わってくる。それだけにやはり、試行錯誤していれば、課題も感じている。
「ビルドアップの部分については課題だと思っています。ボールを受けて、ただ下げるだけでなく、サイドバックである自分がボールを受けて、攻撃の起点になれるようにしたい。
そういうところは、やっぱり大伍くんはものすごくうまいですし、落ち着いてやっているように見える。僕はまだまだ余裕がないので、自分が起点になってボールを配球できるような落ち着き、さらに相手を見て、考えながらプレーすることができれば、選手として次の段階に行くことができるというか、プレーの幅も広がっていくと思っています」
とはいえ、明本にとって最高の魅力であり、最大の武器である、ひたむきさはなくしたくないと語る。
「まずはがむしゃらにやらなければいけないですし、そこは常に自分のベースだと思っています。走りたいというか、走れちゃうというか(笑)。まだまだ若いので、自分のプレースタイルを見てもらえれば分かると思いますけど、今はまだまだ、がむしゃらにやれたらと思っています」
華麗なパスや豪快なシュートには、確かに興奮を覚える。
ただ、心を動かされるのは、ひたむきで、がむしゃらなプレーだったりする。明本のプレーには“それ”があるからこそ、心をつかまれるのだろう。
きっと、浦和レッズのファン・サポーターも同じ思いだとすれば、それこそが望んでいる姿勢であり、欲しているプレーでもある。
「鹿島戦でゴールを決めたとき、声が出せないなかでも自然と沸き上がったファン・サポーターの雰囲気がたまらなかったんですよね。選手としてプレーしている限り、常にその瞬間を味わいたいと思う。コロナ禍での開催が続いているだけに、僕はまだ一度も浦和レッズのファン・サポーターの声援を聞くことができていないですけど、それでもゴールした瞬間のスタジアムの雰囲気がうれしかったんです」
そこには「いつかは」という思いが込められていた。
自分がゴールを決め、耳をつんざくほどの歓声が巻き起こるスタジアムを夢に、明本は次の試合も、そして、その次の試合もがむしゃらに走り、ひたむきに戦い続ける。そして、さらに多くの浦和レッズのファン・サポーターの心をつかんでいくことだろう。
がむしゃらとひたむきさは、そう思わせるほど、大きな個性であり、最大の魅力だ。
(取材/文・原田大輔)