根性という言葉が、まさか長沼洋一の口から出てくるとは。驚きだった。
昭和30〜40年代、主として漫画を中心に持てはやされた「根性」は、アナクロニズムの代名詞だと批判も受ける。だが、平成9年生まれの長沼は言い切った。
「攻守に貢献するために、走らないといけない。走ることは根性なので、頑張るだけです」
主戦場はサイドハーフやFWだが、時にサイドバックを任されることも。どういうポジションでも長沼は、走ることを厭わない(ドウグラス・ヴィエイラに追いすがる赤いビブスの選手が長沼)
高校1年時から広島ユースのレギュラー。将来を嘱望されてプロに入った長沼少年は当時、「走れないことはないけれど、そこはストロングじゃない」と語っていた。
だが、3年半の歳月を経て広島に戻ってきた男は、とにかく走る。
例えば彼の対札幌戦(3月10日)でのスプリントは20分で12回、90分換算では54回という驚異的なもの。もちろん単純計算での評価は難しいが、長沼の走りは圧巻だった。
3年半、J2のクラブで試合に出られない苦しさも、勝利に貢献する喜びも経験したことが、少年を大人に変えた。
6年目を迎え、プロとしてあるべき姿勢を長沼は語る
「プロとしてどう振る舞っていくべきか。自分のためでもあるけれど、ファン・サポーターのために一所懸命やるしかない」
だからこそ、走る。だからこそ、戦う。
以前はシャドーにこだわり、ワイドでの起用に不満を口にしていたが、今はFWでもサイドバックでも全力を尽くす。
まだリーグ戦での先発機会はないが、それでも腐ることなく、常に全力で準備する
「取り組む姿勢もいいし、身体能力も含め、大きな可能性を持っている」
城福浩監督の期待も高く、27日のルヴァンカップでは先発に抜擢。期待に応えた長沼は決定機を2つ、創りだした。特に38分、青山敏弘の見事なロングパスを引き出したフリーランニングは圧巻。完璧に裏をとってGKとの1対1を迎えたシーンは惜しくもゴールならず。ただ、ドリブラーを自認していた長沼が走りでチャンスを創ったことは成長の証だ。
「決めていれば、結果は変わっていた」
記者会見で自身の責任に触れた長沼洋一の表情は、凛としていた。
「次はきっと」という決意に満ちた力強さだった。
長沼洋一(ながぬま・よういち)
1997年4月14日生まれ。山梨県出身。中学卒業時は横浜FMユースからも誘いがあったが、環境の良さに惹かれて広島ユースを選択。2016年、トップ昇格。同期は森島司。2017年夏、山形に期限付き移籍。2018年は岐阜、2019年からは愛媛でプレーし、今季から広島に復帰。愛媛時代の昨年8月に結婚し、今年2月9日には長女が誕生した。
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