「彼の芝居は本人はとても悲劇的なのに端から見ているとなんともおかしくなる。これが彼の神髄だと思う。情けなさの中に詩がある」
そう追悼したのは、名作『北の国から』(フジテレビ系)を手がけた脚本家の倉本聰さん(86)。田中邦衛さん(享年88)が3月24日、老衰で亡くなった。葬儀は家族葬でとり行われたという。
「'02年に『北の国から』が終了してから、体力的な衰えもあり、仕事をセーブするようになりました。'12年8月、同作で共演した地井武男さんのお別れ会に参列して以降、公の場に姿を見せることもなくなりました」(映像関係者)
'09年、妻・康子さんは彼の体調について本誌にこう語っていた。
「ずっと今まで仕事に頑張ってきたから今、少し休ませてあげているんです。人生最後のご褒美のようなものです。私たち、あと何年生きられるかわかりませんからね」
前出の映像関係者は言う。
「映画『最後の忠臣蔵』('10年)が遺作となりました。晩年は老人ホームから自宅に戻り、車いす生活を送っていたようです。最後は家族に看取られながら息をひきとったと聞いています」
■健さんが編集部に語った「邦ちゃんの名前だけは…」
実は本誌は'12年、交流半世紀の盟友・高倉健さん(享年83)が、主演映画『あなたへ』の次回作で、田中さんとの共演を熱望していたという情報を入手していた。
「寅さんのような“テキ屋”が息苦しくなった日本を出て、パリに渡る物語です。真面目で頑固な高倉さんと、お調子者の田中さんが日本人観光客をだまそうと珍騒動を起こす。そこに1人の日本人女性観光客が現れる。だましたつもりがだまされてしまう……。そんなシナリオでした」(映画関係者)
本誌が当時、高倉さんの所属事務所に確認すると、編集部に高倉さん本人から電話がかかってきた。
「新作映画で邦ちゃんとパリで共演したいという話は事実です。でも実は邦ちゃんはいま、体調があまりよくないんです。この共演の話が報じられてしまうと、彼が無用なプレッシャーを感じてしまうのではないかと心配しています。自分としても心苦しいですので、邦ちゃんの名前だけは出さないでもらえないでしょうか――」
本誌もこの約束を守り、当時の記事では田中さんの名を伏せた。2年後、高倉さんは他界。本誌はこの話を田中夫人に打ち明けた。
「えっ! 私どもも初めてお聞きしました。高倉さんはそんなお話を考えていらしたのですね……。田中は高倉さんをお慕い申し上げていましたから、とても光栄なことでうれしいと思います」
生前の田中さんの“静かに見送って”という希望でお別れ会、偲ぶ会の予定もないという。遺族はこんなコメントを発表している。
《出演させて頂いた作品を通し、故人を思い出して頂くことがあれば、幸甚に存じます》
田中さん、高倉さんの数々の名作は後世に生き続ける――。
「女性自身」2021年4月20日号 掲載