3度目となる緊急事態宣言が4都府県に発出され、イベントは規模の大小を問わず無観客開催を余儀なくされた。
昨年2月26日に大型イベントの自粛要請が告げられ、コンサートやライブは相次いで延期・中止に。1度目の緊急事態宣言が解除された後、徐々に有観客公演が再開された。しかし収容人数を会場キャパシティの50%にするなど、主催者たちは厳しい条件をクリアしなければならなかった。
「利益が出にくいとわかっているので、ただただコンサートやライブを止めない信念でやっています。ここまでくると持久戦です」
こう語るのは、大阪の大手プロモーター会社で数々のコンサートやイベントを手がけるAさん(36)。1年以上続くコロナ禍を振り返り、感染防止を徹底しながら運営する現場の様子について語ってくれた。
「当初は個人的にも『自分だったら行かないな』とか、自分の家族が行こうとしていたら『今は行かなくてもいいんじゃない』と反対すると感じていました。興行は娯楽なので、ないと生きていけないというものではないから、真っ先に『必要ない』と言われることも理解していました」
これまで有観客開催にあたって、会場の収容率は50%以内と規定されてきた。そんななかで昨年10月にガイドラインが改定され、異なるグループ間では座席を1席空ける“グループディスタンス”が許可された。5人以下の同一グループ内では、座席間隔を設けなくても良いというルールだ。
ガイドラインが緩和された形だが、Aさんはこのルールに沿って座席を組み替える作業が最も苦労したという。
またイベント業界は最先端と思われがちだが、実は“アナログ”だとも教えてくれた。
「お客様がチケットを持ったままで、延期した公演の日程が何度も変更されることがありました。会場の50%しかお客様を入れられないとなると、予定していた会場よりもキャパシティの大きい会場に変更する必要も出てきます。そうなると一列に入る席数も12席だったり、15席だったりと異なるので、同じようには対応できません。
具体的にはチケット販売済みの座席図面を出して、お客様が何人で来るのかを調べます。そして、手作業で新しい会場に当てはめていくことになります。元の会場で前方の席だったお客様は、新しい会場でも前方になるよう配慮します。
またお客様がどの席に指定されたのかが分かるよう、席番カードの張り替えや着席禁止表示を貼っていきます。これらの作業は公演前日の夜中までかかることもあります」
■電子チケットの普及が奏功
そんななか、電子チケットの普及は“時間稼ぎ”になったという。
「購入枚数が1枚や3枚のようにバラバラだと、コンピューターはグループディスタンスの振り分けができないんです。まずお客様に申し込みをしてもらって、『2枚申し込みが何件、3枚申し込みが何件』などと手作業で1席ずつ間隔を空けて割り振っていきます。
電子チケットだったら公演の3日前位に席番の通知が届きます。ですが、紙のチケットだと発券と同時に席番も確定してしまう。電子チケットによって席番を公演直前まで変えられたり、追加のご案内を送れたりすることはメリットになっています」
感染防止策に努めても、ときには演者やスタッフに陽性者が出ることがある。そうなると、上演期間中でも公演を中断せざるを得ない。
「公演当日に現場を運営しながら、翌日の公演中止をお客様に連絡しなくてはなりません。スタッフと手分けして、自分のスマホから直接、お客様にかけることも何度かありました。今はプレイガイドがチケット購入者と連絡をとっていますが、延期や中止が相次ぐなかで、プレイガイドも追いついていなかったんです」
イレギュラー続きだったが、それでも乗り切れたのはお客様からの温かい言葉だったという。
「突然の連絡にもかかわらず、『もしかして、朝から連絡してくれていました? ありがとう』と労ってくれる人もいました。会場でも『あなたたちが一番大変よね』と声をかけてもらったこともあります。ライブに足を運んでくれるお客様は、とても協力的です。やっぱり自分が好きなものとして来場してくださる訳なので、『開催してほしい』という気持ちが伝わってきます」
■気がかりなのはお客様のメンタルケア
そんなAさんが将来的に懸念していることは、制限が完全に緩和された場合のことだという。
「いまはグループごとに座席の間隔を空けているので、お客様的には快適に感じるようです。ただ、その状況に慣れつつあるので、今後集客を100%に戻す時が難しくなるのではないでしょうか。人との距離に敏感になっているので、不快に感じる人も出てくるかもしれません。私たちはお客様の感染症対策など物理的なところはケアできますが、『チケットを購入しよう』と思ってもらうことから来場するまでのメンタル面までケアするのは難しいと思います」
だがAさんは「これは野外音楽堂でライブがあったときのことです」と切り出し、“メンタルケア”についての思いを語ってくれた。
「看護師や医療従事者は職業柄、会場に入ることができません。それでもチケットを持って『会場の外で聞いていてもいいですか?』と尋ねてきた人もいました。本当に今、医療従事者が一番大変だと思います。仕事が忙しいし、好きなこともできない状況じゃないですか。イベントに行くことが悪いわけではないけど、感染した場合に『イベントに行っていました』となると体裁が保てないと思うんです。お客様のメンタルケアもできるよう、何かできることはないかと考えているところです」