「コロナによる外出自粛を機に、これまでよりも、夫婦でいっしょに過ごす時間が増え、ケンカをする頻度も増えていると聞きます。それを劇的に改善する方法は、いっしょに映画を見ることです」
こう話すのは、映画好きで知られる心理研究科の御瀧政子さん。えっ、いっしょに映画を見るだけで夫婦仲が改善するんですか?
「映画というのは、そのほかの総合芸術に比べても、作る時間、人材、資金が膨大にかかっています。それが2時間前後に集約されて、しかもDVDソフトなら、繰り返し見ることができる。単に画面に向かっているようで、じつは目、耳、肌感覚など、人の五感を通して、大きなエネルギーに包まれているんです。夫婦で、それを共有することで、お互いに対する思いが確実に変化するんですよ」
ひとくちに不仲と言っても、その原因はさまざま。そこで、今回は不仲の原因を分類。年間百本以上の映画を見ているという御瀧さんが、それぞれの不仲の原因を改善するのにマッチする映画ベスト3を厳選。
■「セックスレスに悩む夫婦」向け
【1位】『31年目の夫婦げんか』(2013年/デヴィッド・フランケル監督)
「最高の結婚をしたとしても、荒んでしまう時期はあるもの。長いときをともに無事歩んできたと自負がある夫は結婚生活に問題はない、一方妻はもう一度『結婚を取り戻したい』と思ってカウンセリングを受ける。絆が一度失われてしまうと、求め方がわからなくなり、結婚生活の救済に奮闘する夫婦の姿に胸が熱くなります」(御瀧さん・以下同)
【2位】『きいろいゾウ』(2013年/廣木隆一監督)
「それぞれ心に大きな秘密を抱えた夫婦が、静かに日々を大切に生きている姿を描いています。痛みを抱えている心は、決して立ち入らないで、そっとしておくこと。五感を駆使して、ふれ合いや心から寄り添うことが必要になります。時がくれば自分で決着をつけられる。だからあせらなくてもいいんだということがわかる物語です」
【3位】『グッバイ・ゴダール!』(2017年/ミシェル・アザナヴィシウス監督)
「20歳の妻は夫の才能を信じているが、35歳を超えた芸術家はマヌケ、というコンプレックスを抱えた不器用な夫。世の中が大きく動く時代に、ポジションに迷い、嫌われるのをわかっていながら、自分や主張を変えられない。あなたを大切に思ってくれている人は才能以外に、あなた自身を尊敬してくれているはず。そのことを気づかせてくれます」
夫婦のスキンシップに関しては、欧米と日本では大きく違う。
「映画でも洋画では、年齢を問わずに肌をふれ合い、夫婦の愛の営みが自然に描かれているのが、日本の夫婦には気恥ずかしいかも。でも、夫婦の営みが仲むつまじさを深めるのは世界共通です。『31年目の夫婦げんか』では、夫婦関係を取り戻したい妻がカウンセリングを受けるシーンを自分のこととして受け止められたら、きっとあなたの背中を押してくれるはず」」
■「会話がなくなった夫婦」向け
【1位】『砂漠でサーモン・フィッシング』(2012年/ラッセ・ハルストレム監督)
「砂漠でサケを養殖し釣りを楽しむプロジェクトを依頼された主人公。そんな不可能だと思える課題を、あきらめずに、抱えている問題点(課題)を明らかにし、解決しようとする過程で、翻弄されるカップル。どんなに冷めかけた絶望的な状況でも、相手の立場に共感し、自分の気持ちに正直になって話し合えば、目標に近づけることを教えてくれます」
【2位】『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年/白石和彌監督)
「“好きな人が笑顔でいてくれるなら、それでいい”と思い、一緒に行動している男。8年前に別れた男を忘れられずに生きている女。自分が選んだ道でよかったか、答えは最後の最後までわからない。でも人は精いっぱいやれることをやっていくしかない。それはいつか必ず相手に通じると信じるひたむきな心にうたれます」
【3位】『her/世界でひとつの彼女』(2014年/スパイク・ジョーンズ監督)
「24時間いつでも呼べば応え、しかも自分の想像を超える答えを得ることもできる頼れるAI(人格を持つ最新の人工知能型OS)がやがて恋愛対象に。『あなたの心の中にある恐怖を私の力で消してあげたい。そしたらもうあなたは深い孤独を感じなくなる』と語るAIとの別れがやってきて−−。人とのつながりをもう一度信じてみようという心持ちになる映画です」
ずっと顔を突き合わせていると、黙っているほうが楽なこともあるのは事実。
「でも言葉によるコミュニケーションがないと、血の通った夫婦関係は復活しません。『砂漠でサーモン・フィッシング』は、主人公が砂漠でサケ釣りをする事業を依頼され、翻弄されるカップルを描いていますが、破綻しかけた仲を回復するのは会話の力です」
しかし、いきなりいっしょに映画を見ることはかなりハードルが高いと思う人もいるだろう。
「おすすめは、まず自分一人で『よさそう』と思った映画をチェック。そして本当にこれはいいと思ったら、少し強引にでもご主人を誘って二人で見るといいでしょう」
「女性自身」2020年7月7日号 掲載