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「上皇職によれば、原因不明の微熱のご症状、乳がん手術後のホルモン療法によるとみられる左手指のこわばりが続いているそうです。しかし美智子さまはご自身の体調がすぐれないなか、何よりもコロナ禍の国民を心配されています」(皇室担当記者)
上皇后美智子さまが、10月20日に86歳の誕生日を迎えられた。宮内庁によると、今年は美智子さまのお気持ちにより、すべてのお誕生日行事が中止された。
いまだ世界中を覆うコロナ禍のなか、美智子さまのお言葉に力をもらい、遠いベトナムで日本の絵本を普及させようと尽力し続けている2人の女性がいる。
「'17年3月2日のことでした。首都・ハノイで行われた在ベトナム日本大使夫妻主催レセプションの式場で、美智子さまとお話をさせていただく機会に恵まれました」
そう振り返るのは、'02年に日本からベトナムに移住して、広告や編集の仕事とカフェの経営をしている勝恵美さん(44)。美智子さまにお会いしたのは、日本の絵本をベトナム語に翻訳して出版する計画が進行しているときだった。
美智子さまは勝さんに「ベトナムの子供たちのための絵本の普及に頑張ってください」とお声がけされた。
「美智子さまが私たちの活動のことを気にかけてくださっていて、本当にうれしいことだと思いました」(勝さん)
日本の絵本をベトナムに広めたいと勝さんに提案したのは、親友であり仕事のパートナーでもあるベトナム人女性、レ・ティ・トゥ・ヒエンさん(42)だ。
勝さんとともに大使夫妻主催のレセプションに出席したヒエンさんに、美智子さまは「あなたが日本の絵本をベトナム語に翻訳して、読み聞かせをされている方なのですね?」と話しかけられた。
ヒエンさんは「はい。広くベトナムの子供にも絵本の素晴らしさを感じてもらいたいと思い、自分で200冊くらいの日本の絵本を翻訳して、'14年から読み聞かせの活動を始めました」と答えたという。
美智子さまはヒエンさんの活動に関心を示され「読み聞かせをしている絵本の中に『ぐりとぐら』もありますか?」と質問された。『ぐりとぐら』は美智子さまが、天皇陛下が小さなころに読み聞かせていらっしゃった作品だ。そして「今後もベトナムの子供たちのために絵本の普及活動を頑張ってください」と、ヒエンさんの手をとって励まされたのだ。
ヒエンさんが日本の絵本に出合ったのは'09年のこと。長女の出産祝いとして日本の友人からプレゼントされたのだ。
“生き生きとした登場人物たちに親しみを感じ、色も鮮やかで想像力がわく。こんな本はベトナムにはない”と、ひと目で魅了された。
「実は、ベトナムでは長い戦争と貧しさのために『絵本』というものがまったくといっていいほど存在しなかったのです。日本ではお母さんが絵本を読み聞かせるのは当たり前の光景ですが、その大切さを理解してもらう啓発活動も必要でした」(勝さん)
後日、美智子さまから大使館を通じて、幼少期の読書の思い出を綴られたご著書『橋をかける 子供時代の読書の思い出』が、勝さんとヒエンさんに贈呈された。その中に記された言葉に、2人はたいへん感激したという。
《読書とは人間の喜び・悲しみを理解する「根っこ」と想像力を育む「翼」を作るもの》
そして勝さんはこう決意した。
「ぜひとも、このご著書をベトナム語に翻訳して、広く美智子さまの思いをベトナム人に伝えたい」
そして、翌'18年の美智子さまのお誕生日、10月20日に『橋をかける』の日越版の出版記念式典を挙行することができた。
二人の活動について、美智子さまと親交のある絵本編集者、末盛千枝子さんはこう語る。
「美智子さまとお話ししたときに、ベトナムでの絵本普及活動が話題になったことがあります。美智子さまは、勝さんとヒエンさんのことはよく記憶されていると思います」
コロナ禍でのベトナムの絵本普及活動は、どのような状況になっているのだろうか。勝さんに話を聞いた。
「コロナ禍でも自分たちにできることはないかと考え、4月にベトナム医療従事者や病院で隔離・治療を受けている人の子供たちに、日本の絵本をプレゼントするプロジェクトを立ち上げました。6月には小児科病棟に、50冊の絵本と美智子さまのご著書をセットとした絵本棚を寄贈する活動を始めました。本棚の名前は美智子さまの著書にちなんで、『橋をかける本棚(Tu Sach Bac Cau)』と命名させていただき、われわれが感激した本の中に出てくるお言葉も添えています」
子供たちにとって“美智子さまの本棚”はまさに、先が見えないコロナ禍の不安の中で希望を授けるものになるに違いない。
'17年から開催されているベトナムの童話作家を発掘するための「童話の花束コンテスト@ベトナム」は、今年も開催された。
「今年はオンラインの開催でしたが、これまで毎年、美智子さまのお誕生日でもある10月20日に授賞式を行ってきました。'18年の応募は251作品だったのですが、今年はなんと1千351作品の応募がありました」
勝さんとヒエンさんがベトナム語訳の日本の絵本を初めて出版したのは'17年6月のこと。それから3年あまり、今年8月に出版された『ぐりとぐら』まで、53作もの絵本が翻訳・出版された。
「5周年を迎える'22年6月30日までに、100作品を出版することを目標に頑張っているところです。でもその目標はあくまで“一里塚”です。今後500作品、1千作品と数も伸ばし、ベトナムに“絵本市場”を成立させるくらい、多くの絵本を出版したいと思います」
美智子さまの励ましを支えに、勝さんとヒエンさんは日本とベトナムのかけ橋になっているのだ。
「女性自身」2020年11月3日号 掲載