「他の方の距離は十分あったが、国民の誤解を招くという意味では真摯に反省している」
12月16日、こう話したのは菅義偉首相(72)だ。菅首相は自民党・二階俊博幹事長(81)ら8名で会食。参加者から「野球の話や、秋田の話をした。仕事の話はしていない」など不要不急の会食だったことが明かされ、厳しい声が。そんななか、冒頭のように陳謝したのだった。しかし、ネットではこんな声が。
《誤解じゃないでしょ。5人以上の会食は控えてくれって言われてる時に8人で会食してたのは事実なんだから》
《「誤解」という言葉の使い方はおかしい。こっち側が間違って解釈してるってこと?》
《誤解なんかしていない》
また大阪の吉村洋文府知事(45)は8月、会見でうがい薬「イソジン」などを並べ「嘘みたいな本当の話で、嘘みたいな真面目な話をさせていただきたいと思います」と発言。ポビドンヨードのうがい薬が、新型コロナウイルスに効果があるとする研究結果を発表した。
しかし、医療業界を中心に「エビデンスが不足している」などの指摘が集中。すると吉村知事は、Twitterで《誤解なきよう申し上げると、うがい薬でコロナ予防効果が見られるものではありません》と弁明した。しかし「誤解のしようがないのでは」と、こちらも言動が問題視された。
さらにRADWIMPSの野田洋次郎氏(35)は7月、Twitterにこうつづった。
《大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。お父さんはそう思ってる》
のちに「優生思想では」との指摘が相次いだが、野田氏は《#個人の見解です》《めちゃめちゃ真面目に返信してくださる人いますが冗談で言っています、あしからず》と投稿。すると《「冗談」とつけたら何言ってもいいわけじゃない》との声がネットで上がっていた。
「誤解だ、冗談だ」といって、素直に謝らない人たち。彼らは、なぜそのような言動に至るのだろうか。
「素直に謝れないのは、保身に走ったり自尊心を守ったり、ということが考えられます。謝罪は、過ちの責任を受け入れるということ。ですが誤解や冗談とすると、すべての責任を取る必要はなくなります。責任を取ることは、不利益をこうむることだと考えているのではないでしょうか」
こう話すのは、心理戦略コンサルタントの山本マサヤ氏だ。山本氏は菅首相や吉村知事のケースを挙げ、「誤解という言葉は便利だ」と話す。
「誤解というと、“受け手と食い違った”とも聞こえます。『そうはいったけど、とらえ方次第では?』と投げかけることで、責任をぼやかすことができるのです。彼らは権力を持っていますから、保身のためにそうしたのでしょう。現在はコロナ禍ということもあり、自身の発言の信頼性を揺るがすのはマズいとも考えたのではないでしょうか」
続けて山本氏は、「お化け遺伝子」ツイートを削除していない野田氏についてもこう言及した。
「『冗談だ』というのは、自身を正当化することになります。いっぽうで『間違えた!』として削除すると自己批判につながり、自尊心を傷つけます。特に野田さんはアーティストですから、自らの投稿を消すことにより抵抗があるのではないでしょうか」
山本氏は自尊心にまつわる、ある実験について話してくれた。
「謝ると自尊心が傷つくけれど、謝らないことで自尊心が満たされるという実験があります。謝ることで自分の価値が下がったように感じてしまう。いっぽうで『世に屈しないぞ!』と謝らないのならば、『自分は立場が強い、または価値が高い』と感じることができるのです」
謝らないことで、地位や自尊心が保てる。これでは、謝らないほうが“自分のため”では?そう投げかけると、山本氏はこう応える。
「言い訳をせずに謝るほうが、好感度が高まるという実験があります。たとえ骨折をしていても『骨が折れてるから手伝えない』というよりは、ひとまず『ごめん』と謝ってから『折れてるから手伝えないんだ』と返すほうがいい印象を与えられるというものです。
また、素直に謝らない人は“謝ったら負け”と考えているのではないでしょうか。しかし、どこに勝ち負けを置くかを考え直すのも大事なことです。決して、批判に屈しないことだけが勝ちとは限りません」
山本氏は素直に謝らない人たちについて、周囲が見守るのも大切だと話す。
「『謝れ!』と強制されると、逆に謝らなくなってしまいます。勉強しろと言われてしないのと同じですね。
一つの選択肢を押し付けるのではなく、対応や返答の選択肢を与えることも大事ではないでしょうか。たとえば『わたしはこう思うんだけど、どう思う?』『どうしてそんな言動をしたの?』と考えを促すのも大切と言えるでしょう」