2020年は、芸能界において、空前の「YouTubeブーム」が巻き起こった年といえる。
コロナ禍による映画やドラマの撮影延期でできた「おうち時間」を使って動画を提供する俳優たち。事務所を退所したのち、個人的な活動の場としてYouTubeを始めた元ジャニーズタレント。芸能界の勢力図の変化により、バラエティ番組から自身のチャンネルへと移動を始めた大御所芸人……。
それぞれの事情を抱えて、多くの芸能人が今年、新しくYouTubeチャンネルを開設した。人気者の彼らにとって、テレビよりも手軽に見られるYouTubeでは視聴者を獲得するのも容易……かと思われたが、その実意外と難しそうだ。2020年に開設された数百もの芸能人チャンネルの中で、チャンネル登録者数100万人を突破したチャンネルは10にも満たない。
そんな厳しい状況の中、見事多くの登録者数を獲得したチャンネルの強みは何だったのだろうか。人気を博している芸能人チャンネルの共通点を3つ考察してみた。
【1】リラックスした雰囲気で「素の自分」感を演出(佐藤健、川口春奈、赤西&錦戸)
今年YouTube界を最も沸かせた俳優といえば、佐藤健(31)だろう。「わずか3日で登録者数100万人突破」のニュースは各所で取り上げられた。もともとの彼の人気ももちろん大きな要因だが、その超人気俳優である彼が、友人たちとともに自然体な姿を見せているのも、このチャンネルが見られる理由の一つだ。
ある人気動画では、佐藤の親友である神木隆之介(27)が「持ち込み企画」と称し、彼をドライブに連れていく。ほかにも人気俳優数名を携え、ノープランでだらだらと日帰り旅行を楽しむのだ。テレビにはないゆったりとした雰囲気の中で、飾らないナチュラルな姿を見せている。
川口春奈(25)のチャンネルも、登録者116万人と絶大な人気を誇っている。一番人気の動画は「実家でまったり過ごします!【Vlog】」(約650万回再生)。なんと、彼女が実家に帰って家族や親族とただ料理をしたり、ご飯を食べたりするだけの動画である。「女優さんだって普通に人間なんだよなって思う動画」というコメントに大量のいいねがついている。
元ジャニーズの赤西仁(36)・錦戸亮(36)が二人で立ち上げた「NO GOOD TV」も同様だ。2人が友人たちと自然体でトークをしたり、ゲームをしたり、笑い合いながら英語を学んだりする様子を(いい意味で)垂れ流している。トップアイドルだった彼らがまるで普通の飲み会のように話し、悪態を付き合う様子は視聴者にとって垂涎ものだろう。
俳優たちやアイドルが、テレビでは見られない、自然体で「素」な一面をだらだらと見せてくれる。それが、彼らのチャンネルが視聴者から人気を得た理由だ。
【2】人気YouTuberとの巧みなコラボでYouTubeファンを味方に(手越祐也、仲里依紗)
手越祐也(33)のチャンネルも登録者数160万人超の大人気だ。手越のYouTube戦略で巧みなのは、YouTubeを本業とする人気YouTuberたちとのコラボ動画を次々と投稿している点である。
なかでも再生数が高いのは、登録者数230万人を超える夫婦YouTuber「しばなんチャンネル」とのコラボ。妻であるあやなん(27)とともに夫のしばゆー(26)にドッキリをしかけたり、二人の幼い息子「ポンス」と仲良く遊んだりと、友人として仲睦まじい様子が垣間見える動画だ。
YouTuberたちと友達のように楽しむコラボを見せることで、YouTubeを観る習慣のあるYouTuberファンを味方につけ、登録者数・再生数ともに大きく増加させることができた。
仲里依紗(31)も同様に、若者たちを味方につけている。人気YouTuberエミリン(27)に自身の洋服を着せてみる企画など、女性YouTuberとのコラボ企画を頻繁に投稿している。彼女たちが「里依紗サマ」と呼んだり、仲を尊敬している素振りを見せたりするため、彼女たちのファンからも「里依紗サマ素敵」と敬意を集めている。こうしたコラボや関係性作りも手伝って、仲のチャンネルの視聴者が増えていることは明白だ。
【3】中高年のファンも一緒に、テレビからYouTubeの世界へ(江頭2:50、石橋貴明)
「YouTubeファン」を自らのチャンネルに引き込んだのが手越や仲なら、「テレビファン」をYouTubeの外から彼らのチャンネルに引き込んできたのが江頭2:50(55)や石橋貴明(59)だ。「めちゃイケ」や「とんねるずのみなさんのおかげでした」など、かつて一世を風靡した彼らのメインフィールドが終了し、あまり活躍の場を見ることがなくなっていた彼らが、やりたいこと、面白いと思うことをとことんやり切る場所として選んだのがYouTubeだ。
江頭は過去に共演した大御所芸能人たちとのエピソードを語ったり、質問返しをしたりと、なかなか見られない彼の本音や素性を見られる動画を投稿。石橋は長くタッグを組んでいたディレクターとともに、清原和博(53)と共演したりおぎやはぎをいじりに行ったりと、得意のやりたい放題を見せている。どちらも、過去にテレビで彼らの芸風を楽しんでいたファンたちにとっては嬉しい企画・演出だ。
かつてのファンである世代を新しくYouTube界に引き込んだ。それが、彼らのチャンネルが開始早々根強い人気を得た理由だろう。
■登録者数が伸びないチャンネルの共通点は?
こうして成功したチャンネルの影で、元々知名度が高いタレントなのに、あまりうまくいっていないチャンネルも多数ある。彼らの課題はなんだろうか。恐らく、「YouTuberがやっていることをやろうとしている」「『絡み』をうまくできていない」の2点が大きいのではないかと推測する。
今回取り上げた赤西、錦戸、手越と同じく、元ジャニーズである田中聖(35)もチャンネルを開設しているが、登録者数は約11万人と振るわない。彼のチャンネルを見ると、「ノーリアクションチャレンジ」「都市伝説検証」など、YouTuberの企画でよくあるものを取り扱っている。江頭や石橋と同じお茶の間での人気者、今田耕司(54)のチャンネルも、約10万人となかなか苦戦している。彼のチャンネルでは「Pepperくんと話す」「クッキング」などの企画が多い。
どちらも一見、YouTubeというフィールドに合わせているように見えるが、「YouTuberが既にやっていること」をすることは芸能人には求められていない。既に十分知名度のある彼らに求められているのは、YouTubeらしい企画ではなく、これまでには見せなかったナチュラルな部分を見せたり、彼らの人脈を活かし、他の芸能人やYouTuberと楽しく絡んでいく様子を見せることなのだ。そうした芸能人としての強みをうまく活かせたかどうかが、明暗を分けた要素と言えるだろう。
2020年は芸能界にとって、まさに「YouTube元年」となった。
人気チャンネルの今後の成長、また新しい人気チャンネルがさらに出現することを、来年も楽しみに見守りたい。
【PROFILE】
桂木きえ
1992年東京生まれのライター・コラムニスト。 東京大学文学部卒。会社員として働くかたわら、各種メディアにてコラムを執筆。YouTube、TikTok、Instagramなどネットメディアと若者文化についての考察を中心に活動する。Twitter:@kiekatsuragi