4月1日、「70歳就業法」とも呼ばれる「改正高年齢者雇用安定法」が施行された。高齢者の働き方は変わるのだろうか。「改正高年齢者雇用安定法」について、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれたーー。
■なぜ高齢者を働かせたいのか
これまで、会社員の方は希望すれば全員65歳まで働くことができました。企業には(1)定年を65歳に引き上げ、(2)定年制の廃止、(3)65歳まで継続雇用のどれかを、制度整備する義務がありました。
4月1日以降はこれに加え、70歳まで就業できる制度の整備が「努力義務」となりました。企業は(1)定年を70歳に引き上げ、(2)定年制の廃止、(3)70歳まで継続雇用、(4)70歳まで業務委託、(5)70歳まで社会貢献活動での就業、どれかの制度を導入するよう努めることが義務付けられたのです。
ただ、この法律には問題があります。“70歳まで働く”ことにだけ注目し、収入などに言及されていない点です。これまでも60歳以降は収入が大幅に減る方が多いのですが、70歳就業法にある業務委託や社会貢献活動での就業で、どれほどの収入になるかは不明。いくら働けても収入が少ないと暮らしていけないことを、国は考えているのでしょうか。
また、こうした問題を、しっかり議論しなかったことも大問題です。この法律が成立したのは’20年3月。新型コロナの感染拡大が本格化し、とても怖くて、報道番組もコロナ一色だったころです。コロナショックのどさくさに紛れて、法律の不備を追求されるのを避けるため、早期成立させたのではと、疑いたくなります。
65歳までの雇用義務の際も、’90年に努力義務と法律に明記されてから、実際に希望者全員が働けるようになったのは’12年。実に20年以上かけて法律を固めています。どんな形であれ70歳就業の文言を法律に盛り込めば、あとは時間をかけて法整備はできると踏んでいるのでしょう。
ではなぜ、そこまでして高齢者を働かせたいのでしょう。背景にあるのは「年金問題」です。
以前、65歳まで働ける環境づくりを進めたのも、年金の支給開始を60歳から65歳へ引き上げようとすることが発端でした。年金は65歳からしかもらえないのに、定年が60歳だと60〜65歳の間は収入ゼロでどうやって暮らすのか。そうした反発を避けるためだったのです。
とすると、70歳まで働ける環境づくりは、年金の70歳支給開始を見据えた布石だといえるでしょう。年金を65歳より遅く受け取る「繰り下げ」も、現在は70歳が最長ですが、’22年4月からは75歳まで選べるように拡大することが決まっています。国は着々と、年金の70歳支給開始に向かって手を尽くしているのです。
70歳就業法はまだ努力義務の段階で、いますぐ何かが変わるわけではありません。ですが、国は年金制度変革の初めの大きな一歩を、確かに踏み出しました。今後の行方を注視したいと思います。
「女性自身」2021年4月20日号 掲載