匿名掲示板「2ちゃんねる」の創設者で、そのユニークな言動から、ワイドショーのコメンテーターやYouTuberとしても活躍しているひろゆき。そんなひろゆきが裁判で敗訴したあげく、賠償金60万円を支払ったと話題になっている。
今回の裁判の原告は、メールマガジンサービス「まぐまぐ」の開発者として知られる深水英一郎氏だ。
深水氏とひろゆきは、『ガジェット通信』というニュースサイトを運営する企業「未来検索ブラジル」で代表と役員という間柄だった。
事件は、2019年に開催されたニコニコ動画のイベント「ニコニコ超会議」で起きる。トークセッションに登場したひろゆきは、酩酊状態で、深水氏が会社の資金を横領したと発言したのだ。深水氏は、これに異を唱え、訴訟を起こした。
本誌の取材に対し、深水英一郎氏が、次のように語る。
「当時、僕は『ガジェット通信』で代表と記者を兼任していました。あるとき、紙媒体とコラボすることになり、ガジェット通信で撮影したアイドルなどの写真素材を、その紙媒体に無償で提供する代わりに、紙媒体に広告を載っけてもらったんです。
それに対してひろゆきは、どういうわけか『深水はお金を受け取っていたに違いない』と言い出したんです。そのときは周りの役員がいろいろ話をして収まったのですが、ひろゆき的にはどうもモヤモヤが残ったらしいのです。
ひろゆきはニコ生(ニコニコ生放送)の配信者と仲がよく、毎年ニコニコ超会議で、配信者とトークするイベントをやっているんですね。
僕は2018年、未来検索ブラジルをやめています。そして翌年のニコニコ超会議で、とある配信者から『深水さんはなんでやめたんですか?』と質問されたひろゆきが、『(深水氏が)会社の資産を横流しした』と発言した。その結果、深水は悪いことをしてやめたんだ、という感じになってしまいました」
ひろゆきの発言は、深水氏に大きな悪影響を及ぼす。
「ひろゆきがその発言をしたとき、僕は他の会社で役員をしていたんです。すると、取引先から『そんな悪い役員のいる会社とは取引できない』と言われて。まず驚いたのが、ひろゆきが酔っ払って発言したことを真に受ける人がいるんだな、ということですね。
僕だけがなにか言われるならまだしも、会社に実害が出て、迷惑をかける形になったので、自分が悪くないことを証明するために裁判を起こしたんです」
ひろゆきはこれまで「2ちゃんねる」への書き込み削除をめぐり、複数の裁判に敗訴している。2017年5月13日には、『エゴサーチTV』(Abema)で、みずから「賠償金は累積で30億くらいいったと思う」と語っている。
その一方、「払わずに10年たつと時効になってゼロになる」とし、これまで『電車男』の印税60万円ほどを差し押さえられた以外は、賠償金を払っていないと明かした。
そんなひろゆきが、今回、初めて深水氏に賠償金を支払った。
「賠償金が払われたのは、今年の夏でした。判決では54万円でしたが、それに加えて利息も払うことで、60万2525円になりました。ニコニコ円になっているのは、ひろゆきなりのシャレかな、と思います(笑)。
裁判では、ひろゆき側の反論もありました。こちらもあらゆる証拠を示してていねいに説明したところ、それ以上の反論が来なかった。彼なりに納得し、この裁判の内容を受け入れた結果、払ってくれたんじゃないかなと思います。本人名義で振り込まれてきたときは、さすがに驚きましたね」
それにしても、今回、なぜひろゆきは賠償金を支払ったのか。一因として考えられるのが、昨年施行された財産開示手続きの強化だ。今回の出来事を、深水氏とともにYouTube動画で説明した弁護士・藤吉修崇氏がこう語る。
「賠償金を勝ち取った人は、債務者に対して『財産開示請求』をすることができます。財産開示請求が下った場合、債務者は裁判所に出頭して、自分が持っている財産状況を報告しないといけないのです。
改正前までは、債務者が財産開示手続きに応じない場合、30万円以下の科料が裁判所から科されるという緩やかなものでした。それが昨年の改正を経て厳しくなり、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるようになりました。つまり、刑事罰となったのです」
債務者が自身の財務状況を報告するようになったことで、より確実に債務を回収できるようになった。ひろゆきは法律改正を知っていて、刑事罰を避けるため、賠償金を払った可能性もある。
深水氏は、賠償金を手にしたものの、いまでもひろゆきに敬意を持っているという。それは、これまで仲間として一緒にサービスを作り上げてきた仲だからだ。
「なにか用件があって会うとしたら、普通に話せると思いますし、今回の件もちゃんと賠償金をいただいて “リセット” されている。次に会う機会があれば、ちゃんと話して、なにか新しいことができるかもしれません」
ひろゆきとしても、関係を断つより、賠償金を支払ってでも関係を維持したかったのだろう。まさに、「論破王」なりの誠意なのだ。
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