写真は、カナダ出身の落語家・桂三輝さん。
一番大事なのは伝わること
―― 英語と落語という組み合わせが新鮮でした。落語はよく知らないけど英語は勉強したいという人にとって、落語にふれるきっかけになりますね。
三輝 あまり広く知られていないかもしれないけど、落語は英語学習の一つのツールとして、大学の授業で使われることもあります。一人で何役も演じて会話をするから、リアリティがある。「英語落語」って、実はものすごく英語の勉強になるんですよ。
―― 教科書とは雰囲気が違って、本書は自然な英語がたくさん出てきます。
三輝 書く言葉と舞台で喋る言葉は、まったく違いますからね。コメディアンとして一番気を遣うのは、お客様が想像しやすい喋り方、理解しやすい喋り方をすること。つまり、ものすごく自然な喋り方です。
写真は、本書『桂三輝の英語落語』(アルク)の表紙。
落語と運命の出会いを果たす
―― 落語の魅力は何だと思いますか。
三輝 日本に来て5年目、日本語をちょっと喋れるようになった頃に落語を始めました。落語はすごくシンプルで無駄がないんです。一人が着物を着て、枕で自分のことを話して、噺を演じて、オチがある。「これはすばらしい、最高だ」と思ったんですね。
―― そもそも、日本に興味を持ったきっかけは何ですか。実際に来てみて、どうでしたか。
三輝 最近はインターネットで何でも調べられるから、行かなくても詳しくなるかもしれない。でも当時はまだなかったから、日本のことはよく知りませんでした。ただ、パーツで日本の情報を得たり、日本のアートに詳しい友人がいたりして、歌舞伎と能が面白そうだと思っていました。
白いキャンバスを大阪の雰囲気に染めるコツ
―― 本書をどんなふうに読んでほしいですか。
三輝 表現解説の松岡先生にすごくうまいこと解説していただいて、解説を読んで「なるほどなぁ」って勉強になりました。読者のみなさんには、まず落語を聞いて、楽しい解説を読んで、もう一回落語を聞いていただきたいです。そうすると、どんどん笑えるようになってきます。
―― 日本人の読者を意識したところはありますか。
三輝 本にするために特別に落語をやったわけではないし、日本人向けにゆっくり話そうともしていません。本書の音声は、ブロードウェイでやっているのと同じペースですよ。私は早口だけど意外とわかりやすい。それは落語の良さで、すごくシンプルでリアルだから。
写真は、カナダ出身の落語家・桂三輝さん。
覚えて演じてみよう
―― どこからヒントを得て噺を作っているんですか。
三輝 たとえば本書の「挨拶」(注1)や「せっけん噺」(注2)は、完全に私が経験した話。日本語のネイティブじゃないからこそ、気づくことがあるんです。言ってみれば、あるある外人ネタ(笑)
(注1)「挨拶」
英語に訳すのが難しい、日本語特有の長くて改まった挨拶を取り上げている。海外公演の際、この手の挨拶が厄介なことになる時もある。三輝さんがトロントで「お忙しい中ご来場いただきまして......」と言うと、観客の一人が立ち上がり「おれは忙しくないぞ!」と叫んだ、というエピソードをまじえている。
(注2)「せっけん噺」
三輝さんがせっけんを買いにコンビニへ出かけた際の、店員とのやりとりを取り上げている。「『セケン』はどこにありますか?」と言っても通じず、何度も繰り返すことに。結局「ハンドソープ」と言えばよかったというオチ。
―― 英語学習のアドバイスをお願いします。
三輝 ぜひ「覚えて演じてみよう」とアドバイスしたいです。読んで、覚えて、演じていただけたら、すごく勉強になると思うし、最高に嬉しいですね。今度外国人に会った時に、この本にある文章を言ってみたら、たぶん笑ってもらえると思う。
写真は、BOOKウォッチ編集部のリモートインタビューに応える桂三輝さん。
■桂三輝さんプロフィール
(BOOKウォッチ編集部 Yukako)
書名: 桂三輝の英語落語
監修・編集・著者名: 桂 三輝 演者、松岡 昇 表現解説
出版社名: 株式会社アルク
出版年月日: 2020年3月16日
定価: 本体1500円+税
判型・ページ数: A5判・152ページ
ISBN: 9784757436077
備考: 音声ダウンロード付き