新型コロナウイルスの影響で異例のシーズンを戦っているのは選手だけではない。プロ野球・横浜DeNAベイスターズの選手寮「青星寮」(神奈川県横須賀市夏島町)で料理長を務める加々美忠彦さん(56)=写真=は一流ホテルでシェフとして働いた経験を生かし、趣向を凝らしたメニューで原則外出禁止の若手や外国人ら最大100人分の胃袋を満たしている。
母国料理も
「こんな感じだよ。オーケー、オーケー!」。ファーム施設「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」に隣接する合宿所の食堂に明るい声が響いた。6月のある夕方。ドミニカ共和国出身のレミー・コルデロ投手(22)ら外国籍の育成3選手が頬張っていたのは、中南米で主食というトウモロコシ粉で作った薄焼きパンだった。
感染症が流行した今春以降は自由に外出できず、朝昼晩の3食を寮で取ってきた。かつては夕飯を外食で済ませる選手が多かっただけに、「こういう時期だからこそ食事で満足させたいし、テンションを高めてあげたい」と加々美さん。外国人選手が母国料理を味わえるように通訳を介して意見を聞き、新メニューを考案してきた。
閉塞感を解消
食欲旺盛な若手選手への気配りも忘れない。60日をサイクルとする日替わりメニューを提供するだけではなく、時には高級食材のフォアグラを使ったり、フレンチのコース料理やケーキを用意したり。食事を楽しみながら選手たちの閉塞(へいそく)感も解消するのが「加々美流」だ。
コロナ禍以降、仕入れる食材の量は1・5倍に増えたという。地元の三浦半島で取れた野菜や魚を優先的に使い、地産地消にもこだわる。加々美さんは「新鮮なものを提供したいので、球団に相談しながら日々の材料を調節している」と頼もしい。
1998年にベイスターズが日本一に輝いた当時、加々美さんは横浜市内の有名ホテルに勤務。優勝祝賀会ではナインらに振る舞うケーキを作り、石井琢朗選手(現巨人コーチ)らが心から喜ぶ瞬間を見届けた。以来、横浜スタジアムにも足を運ぶようになり、球団の一員として働きたいという思いが膨らんだ。
縁あって青星寮の料理長となり1年半。想定外のシーズンを送りながら、こうも思う。「作った料理を食べて最高のパフォーマンスをしてくれれば何よりも幸せなこと」。ここから巣立った若手選手がチームの柱になってほしいという願いもまた、ちょっとしたスパイスになっている。
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